ジェフティ 約束

■5-2 疼きの根源

 ――吐きそうだ……。
 目を覚ます。意識がはっきりと実態を伴って戻ってきた。
 揺れる足元が心もとない。アスベリアは、自分の体に伝わってくる振動で、己がどこかへと動くもののの中にいると判断した。しかし、周囲は闇に包まれている。自分が置かれている状況を判断するすべがなく、仕方なくアスベリアは耳を澄まし周囲の音を捕らえるため神経を集中した。

 ガタゴトと、その音のたびに下から背中へと振動が伝わってくる。男に手酷く殴られた脇腹が痛んだ。両手首にも痛みが走る。どうやら、自分は手首を体の前で一つに縛られている格好で、何か柔らかなものの上に横たわっているようだ。
 ――雨……が、また降り出したのか。
 雨季特有の激しい雨の音が、アスベリアの周囲を取り囲む。
 一段と大きな振動が下から突き上げてきた。一瞬、体が撥(は)ねる。アスベリアは脇腹から全身に突き抜けた激痛におもわず呻(うめ)いた。
 ふと、傍らで物音がする。コトリと硬いものが置かれる音がし、アスベリアのすぐ脇に動く気配があった。
「車輪が石を噛んだのだ」
 若干しゃべりにくそうに発音する低い声が、頭上から聞こえてくる。アスベリアの目の前が急に明るくなり、その光のまぶしさに顔をしかめた。
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