ジェフティ 約束
 アスベリアは挑発的な笑みを見せた。男の瞳が驚きで見開かれる。
「お前は……、忠義というものがないのか」
「捨てたね、そんなものは。どうだっていい。自分の欲しいものを手に入れる。何を犠牲にしても、どんなに沢山の人間を殺しても、手に入れてみせる。そもそも国なんてものが必要か?」
「一体、何が欲しいというのだ」
 アスベリアは、酒の注がれたグラスを床に置くと、自分の両足を縛っていた縄の結び目をいじり始める。男は黙ってそれを見つめていた。
「この大陸だ」
「なんだと!王になりたいとでも言うのか!」
 男は、はじかれたように笑い声を上げた。「馬鹿な!」と、言いながら、腰の短剣を抜きアスベリアの縄を切る。その顔には困惑したような笑みが残り、その瞳には哀れみすら浮かんでいた。アスベリアは痛む右手首をさすり、床の上のクッションにだらしなく長身を横たえた。
「何を言い出すかと思えば……。この大陸は八百年の昔、ケンティライナス帝の御世に国が分裂して以来、変わることはなかった。それを今さら。それもお前が皇帝になるだと?」
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