ジェフティ 約束
 アスベリアは泣きそうになる。奥歯をかんで耐えたが、涙が溢れ出るのを止めることはできなかった。
 ――お前まで、オレを許そうとするな。
 裏切り者だと、嘘吐きだと、声を限りに叫んでほしかった。殴りかかって嫌いだと言ってほしい。約束を守れない酷い男だと、お前なんか見限(みかぎ)ったと。この短剣を奪い取り、この身体に突き立てればいいのに。
 しかし、そんな希望とは裏腹に、ルーヤはゆっくりと体を起こしアスベリアに向かって両手を差し出した。
「おいおい、食料庫のなかで殺すなよ。後始末が大変だろう」
 戸口で見張っていた兵士が苦笑する。アスベリアはルーヤの手を取り抱き起こすと、雨が激しく大地を叩く外へと連れ出した。唇をかみ締め、細くか弱い身体を抱きしめる。
「私、ずっと……アスにこうしてほしかったの。ずっと待ってた」
 降りしきる雨からルーヤの身体を守るように、アスベリアは腕に力を込めた。
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