ジェフティ 約束
「だめだよ……」
「ごめんな、ルーヤ。……オレ、うまくできないかもしれない」
 唇を寄せるとき、アスベリアはそっと呟いた。唇は涙の味がした。
 生きている音がすぐそばで聞こえる。ルーヤの鼓動がアスベリアの胸に伝わってきた。腕の中のルーヤは、幻かと思えるほど儚く、こんな幸せは二度と訪れはしないだろうと思うほどに愛おしかった。
 脳裏に蘇るルーヤの思い出は甘い香りを漂わせる。農作業であかぎれて血の滲んだ手に、薬を塗ってやりながら交わした約束。二人が最も幸せだったあの頃。
 ――お互いが死を迎えるときは共にいよう。痛みだって二人で分かち合って、幸せも辛さも二人で一緒に……。
 最後の最後まで、ルーヤの喜びも辛さも痛みも分け合うことが出来ない。約束を守ることが出来ない。
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