ジェフティ 約束
 ――この口づけが、身を引き裂くほど痛ければよかったのに。忘れられない身体の傷になり刻まれればよかったのに。なのに、なぜ……。今になってこんなにも愛おしさだけが……。
 ルーヤの唇が歪み、身体の力が抜けていくのを、アスベリアは全身で感じていた。せめて、その瞬間だけでも受け止めたかった。唇が離れてゆく。
 ――行かないでくれ!
 アスベリアは心の中で哀願した。
 ――たのむ!オレを置いていかないで。ひとりになりたくないんだ!
 ルーヤの微かな振るえが止まる。がくりと折れた首が眩しいくらいに白かった。唇からあふれ出した血が、ルーヤの涙に見える。
「ルーヤ……」
 アスベリアはルーヤの背中に突き立てた短剣を地面に投げ捨てた。泥沼と化した地面に膝を折り、強くその身体を抱きしめる。
「ルーヤ……!」
 ――もう、オレの名を呼んでくれないのか。
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