ジェフティ 約束
 裕福を知らず満たされるものは何もなかった頃の思い出は、意外なほど多い。そのどれもが今の自分には一つも手にしていないぬくもりが残っていた。
 家族を傷つけた、もうそれを埋める手段も贖罪の時もアスベリアには与えられない。
 ――オレが、すべて奪った!
 鋭く丁寧に砥がれた小刀で、アスベリアは指を傷つけた。指先から盛り上がった血が、ぽとりと机の上に落ちる。その血の滲んだ先に、アスベリアはあるものを見つけた。
「兄さんは何も悪くない。悪いのはこの国なんだ」
 アスベリアはその文字を読みあげる。机に彫りこまれた凹凸にアスベリアは指を這わせた。
「ばかやろう……」
 ――どいつもこいつも、オレを許すことばかり……。オレは、オレ自身は自分が許せない。
 周りが許し優しくされるほど、アスベリアの罪は自分自身を傷つけた。
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