ジェフティ 約束
 アスベリアは両親の寝室の扉をゆっくりと引きながら開けた。扉から漏れ聞こえていたサズルのいびきが一段と大きくなる。アスベリアは一度背後を振り返り、兵士たちが起き出していないことを確認すると、するりとその中へと身体を滑り込ませる。
 雷鳴がまた轟く。雷光で照らされた寝室はアスベリアの記憶の通りで、何も変わってはいなかった。父のオイルローブが、今でも部屋の隅に掛けられていた。使い古した木の椅子が、擦り切れた母の手作りのクッションを載せたまま、扉の脇に静かに置かれている。
 アスベリアは手の中に納まってしまうほど小さい小刀を慎重に握りなおすと、サズルの横たわっている寝台へ一歩一歩忍び寄った。天幕を跳ね上げ、サズルの喉元に飛び掛った瞬間、アスベリアは脇腹に熱した鉄の棒を突っ込まれたような強い衝撃と痛みを感じた。
「ぐっ!」
 よろめきながらアスベリアは思わず後ろに下がる。自分の脇腹から伝い落ちる生暖かいものが、ジワリと上着を濡らし溢れ出て床へと落ちた。
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