夏雲
yoshiはたぶん、ナナセが中学のときに美嘉にしたことを知らない。
じゃなかったらアタシに美嘉のケータイ番号をナナセに教えるように言うはずがなかった。
夏の大会はもう始まっていた。yoshiもナナセも一年生でふたりだけレギュラーをとって試合で活躍していた。地区予選を順調に勝ち進んでいた。
今はyoshiにはバスケに集中させてあげたかった。
アタシと美嘉の問題にyoshiを巻き込みたくなかった。
だけど今思えば、もっと早く、そう、このときyoshiに相談していたら、ひょっとしたらアタシはあんなことにはならなかったかもしれない。
アタシは一日中上の空で授業を聞いていた。
右耳から入ってきた言葉が、脳に伝わらずに、そのまま左耳から抜け出てしまっているかのように、先生たちの言葉が何も頭に入ってこなかった。
「加藤さん」
「加藤さーん」
棗先生の現国の授業で、
「麻衣ちゃーん」
アタシは先生に三回名前を呼ばれるまで、あてられていることに気付かなかった。
クラスメイトたちはそんなアタシを見てくすくすと笑っていた。
アタシはあわててまわりを見回して、教科書を皆と同じページを広げて立ち上がった。
立ち上がったのはいいものの、何を聞かれたのかわからなくて困ってしまった。
「あの、なんですか?」
逆に問い返したアタシを棗先生は怒らなかった。
先生が誰かに怒ったり叱ったりするところをアタシは見たことがなかった。
先生はそういう人で、笑いながら「座っていいよ」と言ってくれた。
次にあてられたのは美嘉だったけれど、美嘉はケータイに夢中で立つことも返事もしなかった。
先生はやれやれといった顔をして誰かを指名することをやめてしまった。
六限目の授業が終わって皆が帰り支度を始める頃、アタシもいつもと同じように放課後をyoshiがバスケの練習をする体育館で過ごすつもりで荷物をまとめていた。
yoshiもそのつもりだったらしく、アタシに声をかけようとしたけれど、
「yoshi、あんたの彼女、今日借りるから」
美嘉がアタシとyoshiの間に入ってそう言った。
じゃなかったらアタシに美嘉のケータイ番号をナナセに教えるように言うはずがなかった。
夏の大会はもう始まっていた。yoshiもナナセも一年生でふたりだけレギュラーをとって試合で活躍していた。地区予選を順調に勝ち進んでいた。
今はyoshiにはバスケに集中させてあげたかった。
アタシと美嘉の問題にyoshiを巻き込みたくなかった。
だけど今思えば、もっと早く、そう、このときyoshiに相談していたら、ひょっとしたらアタシはあんなことにはならなかったかもしれない。
アタシは一日中上の空で授業を聞いていた。
右耳から入ってきた言葉が、脳に伝わらずに、そのまま左耳から抜け出てしまっているかのように、先生たちの言葉が何も頭に入ってこなかった。
「加藤さん」
「加藤さーん」
棗先生の現国の授業で、
「麻衣ちゃーん」
アタシは先生に三回名前を呼ばれるまで、あてられていることに気付かなかった。
クラスメイトたちはそんなアタシを見てくすくすと笑っていた。
アタシはあわててまわりを見回して、教科書を皆と同じページを広げて立ち上がった。
立ち上がったのはいいものの、何を聞かれたのかわからなくて困ってしまった。
「あの、なんですか?」
逆に問い返したアタシを棗先生は怒らなかった。
先生が誰かに怒ったり叱ったりするところをアタシは見たことがなかった。
先生はそういう人で、笑いながら「座っていいよ」と言ってくれた。
次にあてられたのは美嘉だったけれど、美嘉はケータイに夢中で立つことも返事もしなかった。
先生はやれやれといった顔をして誰かを指名することをやめてしまった。
六限目の授業が終わって皆が帰り支度を始める頃、アタシもいつもと同じように放課後をyoshiがバスケの練習をする体育館で過ごすつもりで荷物をまとめていた。
yoshiもそのつもりだったらしく、アタシに声をかけようとしたけれど、
「yoshi、あんたの彼女、今日借りるから」
美嘉がアタシとyoshiの間に入ってそう言った。