夏雲
「行こう。麻衣」
 美嘉はまた作り笑いの笑顔でアタシに笑いかけた。
「う……うん。ごめんね、yoshi」
 yoshiはぽかんとした顔でアタシたちを眺めていた。
 アタシと美嘉の後ろをメイと凛がついてくる。
 これから罰ゲームがはじまるのだ、とアタシは覚悟を決めた。



「あんたにはしばらく、あたしたちのお小遣いを稼いでもらうことにしたから」
 美嘉は高校のすぐ近くにあるファミレスでそう言った。
 あたしたちはそれぞれドリンクバーを頼んで、美嘉はコーヒーを、メイはアイスティーを、凛はオレンジジュースを飲んでいた。
 アタシはカップにあったかいカフェラテを注いだけれど、一口も口をつけずにいた。
「おこづかい?」
 アタシはオウム返しに聞き返す。
 アタシたちの高校は、アルバイトはよほどの家庭の事情がない限り禁止されていた。
 隠れてコンビニやファミレスでバイトしている子もいるけれど、学校から離れているからと安心していたら担任の先生が客としてきちゃって一週間の停学になった子が一学期の間に何人もいた。
「みんなのおこづかいを稼ぐって言ったって」
 今からバイトを始めたとしてもお金がもらえるのは夏休みの終わりになってしまう。
「だいじょうぶ。ちゃんとすぐにお金がもらえる仕事だから」
 美嘉は笑ってそう言った。
 日雇いのバイトだろうか。
 だったらすぐにお金をもらうことができるけれど、15歳の女の子に力仕事なんて無理だし、ティッシュ配りとかビラ配りだろうか。
 だけど一日働いて一体いくらになるんだろう。
 五千円とかそれくらいにしかならないような気がした。
「一回一万五千円から三万円てとこだよね」
 メイが言った。
「うん、それくらいが相場だと思う。よくわかんないけど百年に一度の大不況なんでしょ今。そんなにお金もってる大人いないでしょ」
 美嘉が笑って言う。
 凛はうつむいてストローをくわえたまま黙ってふたりの話を聞いていた。
 肩が少し震えているように見えた。
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