夏雲
 おまけに『彼氏のことが好きで仕方がない』んだと。なんかさ、馬鹿丸だしだよな」
 アタシは黙って彼の話を聞いていた。
 腰がガクガクしていた。
 体に力が入らなかった。
「俺と付き合ってたときはそんなコミュに入ってなかったし、そんな女じゃなかったんだよね。
 毎日のように電話してきててさ、俺のこと好きとか愛してるとか大切に思ってるとか、毎日毎日聞かされてたんだけど、あれなんだったのかなって俺思っちゃって。
 付き合ってるとき、よくその女が言ってたんだけど、わたしがあなたから離れていくことはないって、わたしたちが別れるときはわたしがあなたに嫌われたときだって、わたしはあなたとずっといっしょにいたいと思ってるって。
 でも結局離れて行ったのはあいつからだった。
 あのときからかな、俺、女の言葉が一切信じられなくなったんだよね」
 煙草の煙を眺めながら、最初のお客さんはそう言った。
 アタシは、裸のまま天井をずっと眺めていた。
「女の言葉はもう二度と信用しないと決めたんだ。
 だけど男だからセックスはしたい。
 風俗は嫌だな。シロウトがいい。
 お金を払うのは別に大した問題じゃないんだよ。
 週に一度女を買って抱くのより、女とフツーに付き合って飯食いに行ったりどこか連れてったり何か買ってやったりするほうが金がかかるからね。
 だから伝言ダイヤルをはじめたんだ。金がほしくて体を売りたがってる女の子なんていくらでもいる。相手の気持ちとかそんなわずらわしいこと考えなくても、やりたいときに、やりたいだけできるからね」
 最初のお客さんは、精液の貯まったコンドームをゆっくりとはずすと、端を結んでこぼれないようにしてゴミ箱に捨てた。
「麻衣ちゃんさ、ツーショットダイアルで俺と話してた子と違う子だよな。声とか話し方とか全然違うもんな。ぼくと話してた子は、たぶんあのファミレスの奥の方の席にいた三人組の誰か、なんだよな」
 アタシは泣いていたかもしれない。
 このときのことをあんまりよく覚えていない。
 ただ、最初のお客さんが話してたことだけはなぜかしっかりと覚えていた。
「君、こういうことするの、はじめてだろ?
 俺、大体週に一度は女買ってるから、はじめての子ってわかるんだよね。
 俺、結構セックスには自信あるんだけどさ、はじめての子は楽しんでくれてないっていうか、体が固いっていうか、君の場合ずっと震えてて、今は泣いちゃってるし」
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