夏雲
 最初のお客さんは、申し訳なさそうにアタシの鞄を開けて、ストラップが何十個もついたアタシのケータイをベッドに置いた。
「お金、テーブルの上に置いておいたから」
 部屋を出ていく。
 アタシはケータイに手を伸ばした。
 ケータイの待ち受け画像はアタシとyoshiのプリクラの写真で、yoshiの笑顔がそのときのアタシにはなんだかとても辛かった。



 そのあとアタシはトイレで二回吐いた。
 yoshiじゃない、好きじゃない男の人に抱かれることがこんなにも気持ち悪いことなんだ、とアタシはその日はじめて知った。
 yoshiに抱いてほしかった。
 yoshiに抱いてもらって、上書きしてもらって、今日のことは全部なかったことしてほしかった。
 今すぐ抱いてほしかった。
 もうバスケ部の練習は終わっている時間だった。
 電話をかけたら、yoshiはすぐ会いに来てくれるかもしれない。
 だけど、アタシが他の男に抱かれてしまったこと、yoshiに気付かれてしまうかもしれない。
 yoshiはそんなに鈍感な男の子じゃなかった。
 繊細で壊れやすい人だ。
 怖くて電話できなかった。
 それに美嘉たちがファミレスでアタシを待っていた。
 シャワーをあびて、あそこの中にボディソープのついた指を入れて、何度も洗った。
 ボディソープがあそこの中の粘膜にしみて、すごく痛かった。
 セーラー服を着て、鏡の前で笑顔を作ってみた。
 ねぇ、yoshi、アタシは鏡に写るアタシを見ながら、yoshiに話しかけてたんだよ。



――ねぇ、yoshi、アタシ今ちゃんと笑えてるかなぁ?
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