夏雲
 ファミレスに戻ると、ラブスカイウォーカーズの新曲が流れていた。
 今日が発売日だったこと、すっかり忘れていた。
 予約してたCDを買いにいかなきゃと思った。
 ラブスカイウォーカーズ、通称ラブスカは、今女子中高生の間で流行のガールズバンドで、アタシたちのファッションリーダー的な存在だ。
 音楽活動だけにとどまらず、メンバーそれぞれが女優やモデル、小説家、デザイナーとして活躍していて、彼女たちのファッションブランド「ラブスカイ」の洋服を着ている女の子はとても多い。
 アタシたちの中では美嘉がそうだ。
 美嘉はラブスカイの服しか着ない。
 メイはレッドストリングスというどの服にも赤い刺繍が入っているブランド、凛はif you...というブランドばかり着てる。
 三人は店の奥の四人がけのテーブル席でアタシを待っていた。
 夕御飯を済ませた後らしく、いくつも食べ終わった食器がテーブルの上にあった。
 お腹がすいていたのか、時間をもてあましていたのかは知らないけれど、デザートにパフェまで食べたのが空いたグラスについた生クリームからわかった。
 凛の前にある食器だけ、一口も料理に口がつけられていなかった。
 運ばれてきたときは湯気が立ち上っていたはずのその料理はすっかり冷めてしまっているように見えた。
「お、おかえり」
 アタシに一番に気付いたのは、凛だった。
 彼女はおびえたような顔をしてた。
 アタシと凛と、美嘉とメイは同じグループだったけれど、けっして対等な関係じゃなかった。
 アタシたちはふたりが決めることにずっと従ってきた。
 もしアタシがウリなんてもうしないと言ったら、ふたりはたぶん凛にさせようとするだろう。
 凛もたぶんそれくらいわかっている。
 凛はひっこみじあんでおとなしくて、アタシにも妹はいるけれど、彼女はついつい面倒をみてあげたくなる妹のようにかわいい子だった。
 凛は幼い頃に両親が別居して、しばらくはお兄さんといっしょにパパと暮らしていたのだけれど、離婚することになったときに凛の親権を母親が持つことになって、それからずっとママと暮らしているのだと聞いていた。
 パパやお兄さんに会えるのは月に一度だけ。
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