夏雲
「そう」
 とだけ、彼は言った。
 うん、とわたしは言った。
「それじゃあね」
 アタシが自転車を車庫に片付けるのをyoshiはずっと見ていた。
「俺、つまんないだろ。しゃべんないから」
 アタシの背中にyoshiはそう言った。
 yoshiは中学のとき何度か女の子に告白されて付き合ったことがあるのだけれど、どの女の子とも長く続かなくてすぐに別れ話をされてきたのだと言った。
「そんなことないよ。アタシはyoshiと並んで自転車に乗ってるだけでドキドキして、楽しかったよ」
 アタシがそう言うと、yoshiはほっと胸をなでおろしたように見えた。
 小さな声で、よかった、と彼は言った。
 アタシの彼はとてもかわいい人だった。
 毎朝いっしょに登校したいねとアタシが笑うと、次の日の朝、yoshiはアタシを迎えに来てくれた。
 yoshiは堂々とアタシの家の玄関のチャイムを鳴らして、そのくせドアを開けたママに何も話せずにいたらしく、
「あなたと同じ高校の制服の男の子が来てるけど」
 と、不審そうにママはまだ寝起きで頭もボサボサのアタシの部屋に言いに来た。
 あわてて手櫛で髪を整えてパジャマのまま玄関に向かうと、yoshiが困った顔をして立っていた。
 どうしたの? って尋ねると、
「毎朝いっしょに登校したいって言ってくれたから」
 と彼は言った。
「朝練、あるから。こんな時間になっちゃうんだけど」
 yoshiは、アタシを迎えに行くか、通りすぎてそのまま学校に行こうか考えながら、アタシの家のまわりをぐるぐると何周も自転車で回っていたそうだ。
 迎えに行こうと決めてチャイムを押したのはアタシが出てくるものだと勝手に信じて疑わないでいたからで、それなのにママが出てきちゃったものだからびっくりして何も喋れなかったそうだ。
 アタシ、おかしくて笑っちゃった。
「待ってて。すぐ準備する」
 彼を見上げたアタシに、yoshiはアタシの頭をくしゃくしゃっとして、八重歯を覗かせて笑った。
 夏服に替わったばかりのセーラー服を着て、自転車を車庫から出そうとすると、
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