夏雲
 掲示板には匿名で、たぶん凛が書き込んだんだと思うけれど、美嘉のことばかりが書かれていた。
 美嘉がどんな家に住んで、どんな親を持ち、どんな家庭に生まれ育ったのか、記されていた。
 父親は職を転々とし、現在は無職であること、母親はネズミ講にハマっていておかしな宗教の信者であること、どこまで本当かはわからないけれど書かれていた。
 書き込みはケータイの画面をスクロールするたびにエスカレートして差別的な言葉が並んでいた。
 家の写真まで貼りつけられていた。
「この写真は美嘉の家?」
 アタシは美嘉の家を知らなかったからそう聞いた。
 凛は、うん、とうなづいた。
「お兄ちゃんがインターネットで見付けてくれたの」
 パソコンをあまり触らないアタシにはよくわからなかったけれど、インターネットの検索サイトでは特定の誰かの家の写真まで手に入れることができるらしかった。
 その家は女王様のように振る舞う美嘉とは正反対の、築何十年立っているかわからないほどオンボロの平屋の家だった。
 最後の書き込みにはURLが貼られていた。
「ここに飛べばいいの?」
 凛は黙ってうなづいた。
 そこには、アタシたち女子中高生がプロフって呼んでみんな登録してるっていうサイトだった。
 自分の簡単なプロフィールと写真を公開して、学校も住むところも違う相手と交流をしたりする場所だった。
 そこに裸の写メを載せたりする女の子が結構な数いることが問題になって、少し前にテレビのニュースで取り上げられたこともあった。
 それは美嘉のプロフィールだった。
 だけどアタシが知っている彼女のプロフとは少し違っていた。
 確かに美嘉の誕生日や血液型、好きなブランドやアーティストまで、美嘉がこたえそうなことが書き綴られていたけれど、そこには美嘉の裸の写真が載っていた。
「どうやって手に入れたの?」
 と尋ねると、
「アイコラだよ」
 と凛は答えた。
 顔は美嘉のものだけれど、裸の体は別の女の子の写真だそうだ。
 そんなふうにはとても見えないくらい、それはよく出来ていた。
「アタシのお兄ちゃん、ネットではちょっと有名なアイコラ職人なんだ」
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