夏雲
 凛のお兄さんは、ツムギという名前でアイコラサイトを運営していて、一日に数万人が彼のサイトを訪れるのだという。
 まだ大学一年なのに、そのサイトの広告収入で月に十数万円の収入があるのだそうだ。
 凛はこの学校裏サイトのURLをアタシたちのグループを除いたクラスメイト全員のケータイに今夜送るのだと言った。
 だけどそれは、凛の復讐計画のほんの一部に過ぎなかった。
「秋葉原には何を買いに行くの?」
 アタシは聞いた。
「わたしもよくわからないんだ。全部お兄ちゃんにお願いしてあるから」
 秋葉原でお兄ちゃんが待ってるの。
 凛はそう言って、アタシが見たこともない顔で笑った。



 凛は、美嘉がアタシのお客さんを捕まえてくるツーショットダイヤルについて、少し調べてくれていた。
 出会い系サイトだって家出少女サイトだってあるのに、いまどきどうしてツーショットダイヤルなんて昔のものをってアタシは思っていた。
「美香が使っているのは、Love promiseという携帯サイト。サイトを通じて女の子と生電話するみたい」
 名前を聞いたことがあるだけで、どういったものかわかっていなかったけれど、ツーショットダイヤルというのは、ダイヤルQ2とか、一般の公衆回線、国際電話回線を利用した男性有料・女性無料の双方向会話サービスだという。
 男女の出会いや交際を目的としていて九〇年代に若者の間で人気だったらしい。ハーちゃんや棗先生がまだわたしたちと同じ年くらいの頃の話だ。アタシたちが生まれた頃でもある。その頃にはもう、そんなものがこの国にはあったんだと思うと、なんだか怖かった。
 だけど九〇年代後半にはもう、インターネットや携帯電話の出会い系サイトの普及によって、ツーショットダイヤルは次第に衰退していったそうだ。一方で、SMやスカトロといった特殊マニア向けのツーショットダイヤルは依然男女ともに、気軽に話せると根強い人気なんだという。
「なるほどね。SMにスカトロかぁ……」
 アタシは美香たちが作っていた料金一覧表を思い出した。
 そこには確かオプションでスカトロが入っていた。
「アタシもいつかすることになっちゃうのかな」
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