夏雲
「チャット仲間の間でオフ会をしようって話になって、アリスも参加するって聞いたんだ。
 みんなでディズニーランドで遊ぼうって。
 シュウにも来てほしい。シュウに会いたいって言われて、ぼくは覚悟を決めたんだ。
 アリスに会いに行こうと思った。
 新幹線のチケットを買って、昨日東京に来たんだ。はじめての東京だったけれど、頑張って浦安まで電車を乗り継いだ。
 アリスは一四八センチしかなくて、小さくて、とてもかわいかった。
 とても恥ずかしがりやで、ぼくに会ってもずっとチャット仲間の女の子の後ろに隠れてた。
 ぼくたちはいろんなアトラクションでいっしょに遊んだけど、ほとんど一言も言葉をかわせないまま夜になってしまったんだ。
 オフ会のあとで、ぼくはアリスと明日はふたりきりで会おうと約束して、それじゃあまたチャットで、と言って別れた。
 ぼくはそのまま近くの漫画喫茶に入って、チャットにアリスがやってくるのを待ったんだ。
 一時間くらいしてアリスがチャットに顔を出した。
 もう電話してこないで。メールもしないで。
 アリスはそう言って、チャットから出て行った。
 意味がわからなかった。
 ぼくはアリスに電話したんだ。
 出てもらえなかった。
 しばらくしてケータイに一通だけメールが届いたんだ」
 シュウはケータイを取り出すと、そのメールを見せてくれた。
「あんたみたいな気持ち悪い男と付き合うなんてありえない」
 メールにはそう書かれていた。



「アリスが恥ずかしがってるように見えたのはぼくの勘違いだったんだ。ぼくはずっと気持ち悪がられてたんだ」
 シュウは泣いていた。
「アリスにもう二度と会えない。アリスの声がもう二度と聞けない」
 はじめて人を好きになったんだ、アリスだけがぼくがここにいてもいいんだって言ってくれてる気がしてたんだ、アリスがもういないなんてぼくはこれからどうやって生きていったらいいかもうわからない。
 彼はそう言って泣きじゃくった。
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