夏雲
 アタシは体を起こして、シュウの唇にキスをした。
 着ていたセーラーのスカーフをはずして、シュウの顔に巻いて目隠しをした。
「アタシのことアリスちゃんだって思っていいよ」
 アタシはシュウの耳たぶに囁きかけた。
 シュウは泣きながら、こどものように、うんうんと何度もうなづいた。
 アタシは、彼が着ていたシャツのボタンをひとつずつはずして、ベルトをはずして、ジーンズのチャックを下ろした。
 トランクスから彼の小さなペニスを取り出すと、口に含んだ。



 シュウは誰かに話を聞いてほしくて、漫画喫茶からツーショットダイアルに電話をかけたのだと言った。
 そして、そんな彼の電話の相手をしたのが美嘉だった。
 彼女はファミレスで、
「今日のお客さん、なんかちょっとキテる感じの人なんだけど、別にいいよね」
 と、アタシに言った。
アタシは別に構わないと言った。
 どんな男の人が相手でも、美嘉が連れてきた相手なら、アタシに断る権利なんてなかった。
 セックスしなくちゃいけないのだ。
 お金をもらって、それを全部美嘉に渡さなければいけないのだ。
 それに、昼間凛とツムギからスタンガンを渡されていたから、どんな男の人が相手でも恐くはなかった。
 それはインスタントカメラを違法改造したものだったけれど、
「本物のスタンガンと威力は変わらないよ」
 ツムギはメイドカフェでそう言った。
「十人の人間がこれを見て十人ともインスタントカメラだと思う。誰もこれがスタンガンだとは思わない。時代はデジカメやケータイのカメラだけど、別にいつも鞄の中に入れていても不思議じゃないし、誰かに見られてもわからないから、本物を持つよりずっといい」
 君は美嘉ちゃんて子にウリをさせられてるんだろ、凛から聞いてる、やるだけやってお金を払おうとしない奴がいるかもしれないし、外国の有名な殺人鬼の切り裂きジャックってやつは娼婦しか殺さなかった、これから君のところにどんな男が来るかわからない。
 だから護身用に常に鞄の中に入れておきなさい、とツムギは言った。
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