夏雲
 美嘉たちが作った料金表には、フェラチオは追加料金が発生することになっていた。
 アタシが口の中に出された精液をはきだしてもいいなら+3千円。
 アタシがそれを飲み込むなら+6千円。
 だけどそんなことはどうでもよかった。
 アタシはシュウにセックスの楽しさを教えてあげたかった。
 だから彼が望むことはなんでもしてあげた。
 アタシはその日、はじめて男の子の精液を飲み込んだ。
 yoshiにもしてあげたことがなかったことだった。
 安全日だったから、生でさせてあげた。中出しもさせてあげた。
 妊娠するかもしれないなんてアタシの頭にはなかった。
 ほんの数時間だけだけれど、アタシはシュウが望む恋人になってあげたかった。



 セックスのあとで、昨日の夜から何も食べていないと言うシュウと、ルームサービスを頼んで夕ご飯を食べた。
シュウは食べながら、今度はアタシの話を聞いてくれた。
 アタシが冗談を言うと、楽しそうに笑っていた。
 シュウは今日、新幹線で名古屋に帰るのだという。
 チケットをとってあった新幹線の時間が近付いていたので、アタシたちは帰り支度を始めた。
「君、名前はなんて言うんだっけ」
 麻衣だよ、とアタシは答えた。
「ありがとう、君に会えてよかった」
 食べ終えると、アタシたちはラブホテルの出入り口で笑顔で手を振って別れた。



 その夜、シュウが横浜駅のホームに滑り込んできた新幹線の前に飛び込んで死んだのを、アタシは翌朝のテレビのニュースで知った。
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