夏雲
 ふつうこういった女の子の部屋を覗き見できるサイトは、あやしげな会社が運営していて、有料の会員制になっているそうだ。
 女の子にはフツーにOLをするのの何倍もの月収が支払われるらしい。
 だけど美嘉の部屋は、ページを開けば誰もがみれるようにしなくちゃ意味がなかった。
 だから彼女が個人的に運営しているホームページに見せかけるために、ネットアイドルのようなホームページの作りにしてあり、凛が書いたと思われる美嘉の日記や、凛が隠し撮りしたと思われる写真も載せられていた。凛のケータイのカメラはシャッター音が鳴らない。
 アフィリエイトと呼ばれるさまざまな広告がページには貼りつけられていた。
 広告収入は全部、ツムギの通帳に入る。
「また収入が増えちゃうな」
 ツムギは笑って、今度おいしいものおごるよと言った。
 凛がわーいと万歳した。
 アクセスカウンタはたった一日で数万になっていた。
「一応ネットアイドルのランキングサイトに登録したり、2ちゃんねるとかで宣伝しておいたんだ。自分の部屋の映像をリアルタイムで流してる痛いネットアイドルがいるってね」
 ツムギはそう言って笑った。
 テレビのニュースでは毎日のように、ファイル共有ソフトで顧客情報が漏洩しただとか、出会い系サイトを使った性犯罪だとかが報道されていたけれど、アタシには縁のない遠い世界の出来事だと思っていた。
 パソコンもインターネットも、アタシにとっては物心ついた頃から当たり前に存在する、生活を便利に、豊かにしてくれるものだった。
 だけど使う人や使い方次第でこんなにも恐ろしい凶器になるのだとアタシはそのときはじめて実感した。
 凛は早速、例の学校裏サイトに、
「美嘉がやってるネットアイドルサイトを見つけたよ。
 動画で部屋の映像が見れるようになってるから、美嘉の生着替えやオナニーしてるとこが見れるかも」
 凛は美嘉の部屋のURLといっしょにそう書き込みをした。
 掲示板は、クラスメイトから違うクラスの子へも広まり、ハツカネズミが増えるみたいな勢いで閲覧者が増えていた。
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