夏雲
 バスケとアタシのことにしか興味がないyoshiは、もちろんのことながら課題や予習を一切しない。
 わたしは朝のその時間に、その日提出の課題や、予習してこなければいけないものを、彼の鞄からプリントやノートを取り出して、彼の下手くそな字を真似して、わたしのプリントやノートから書きうつしてあげるようになっていた。
 登校してきたクラスメイトたちひとりひとりにアタシは「おはよう」と挨拶する。
 そんな風に何人かのクラスメイトたちを出迎えた頃、メイと凛が楽しそうにおしゃべりしながら教室に入ってきた。
 ふたりの席は、アタシのすぐそばだ。
 いつもなら笑顔でアタシに飛び付いてくるはずのふたりが、アタシの席の横を通りすぎていった。
「おはよう」
 アタシはふたりの背中に声をかけた。
 ふたりは一度だけアタシを振り返り、席に鞄を置くと、
「あんた大変なことしちゃったね」
 メイはそう言いながら、凛はそんなメイの後ろにくっついて、アタシのそばにやってきた。
「大変なこと?」
 アタシには何のことかわからなかった。
「よりにもよって、ナナセに美嘉のケータイ番号教えるなんて、美嘉に何されても知らないよ」
 メイはアタシにそう言うと、にやにやと笑いながら席に戻っていった。
「ごめんね」
 と、凛は何か知っているのかアタシにそう言って、あわててメイのあとを追った。
 席につくとふたりはまた楽しそうにおしゃべりを始めた。



 誰が決めたわけでもなかったけれど、美嘉はアタシやメイや凛のグループのリーダーだった。
 美嘉は、始業ベルと同時に教室にやってきた。
 美嘉の席はアタシの前の席だ。
「お、おはよう」
 アタシはそう声をかけたけれど、美嘉から返事はなかった。
 美嘉は鞄をどん、と机に置いて、アタシを振り返った。
 美嘉は笑っていた。
 だけどその笑顔が作り物だということはすぐにわかった。
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