もう恋なんてしない
苦しそうに尚も続ける史也。

「物心ついた時から花嫁修業の身でさ。
お茶に、お花に、着付けに、作法。
幼稚園から女子校の附属に入れられて、そいつ以外の男とはなるべく接触しないようにな。
学校から帰れば、すぐに家元のお屋敷で稽古させられて。
短大に入っても、ずっとそんな生活だった。

ところが、泰如のヤロー…
事もあろうに、よそに女を作って…。
次期家元の座を捨てて、出て行ったんだ。

もう散々だったよ。
瑠璃は裏切られたんだ。

アイツのところに嫁ぐ為に、毎日稽古に励んでたのに
『瑠璃さんは幼すぎる』って理由で…。

実際 瑠璃が生まれた時、アイツは既に中学生。
一回り以上も年の差があった訳なんだけど。
アイツ…自分より年上の女と駆け落ち同然で家出してさ。

瑠璃の人生は、物心ついた時から『次期家元の嫁』と決まってたからな。
毎日、泣いてばかりだったよ。

どんなに家元に謝られて、慰謝料の話されたって…気持ちの整理はつかないよな?
それまでの人生を全否定されたようなもんだし。

まぁ、そんな訳で…ちょっと陰気なヤツだけど、目を瞑ってくれると助かる」


正直…
酷い話だと思った。
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