貴方に愛を捧げましょう
自分にも痛む所があるかのように、彼の顔には悲痛な色が浮かんでいる。
──…っ、なんて表情するのよ……。
「さぁ……早急に治しましょう」
ふくらはぎから足首にかけて、唇が撫でるように滑る。
上へ下へと、ゆっくり往復する間。不意に熱い舌の感触がして。
最も痛む所で動きを止めた時、彼の唇が肌に吸い付いて。
「ぁ、……っ!」
触れている部分が一瞬にして熱くなる。
同時に痛みが最高潮に達し、思わず声を上げた──次の瞬間。
頭を上げた葉玖が、患部にふーっと優しく息を吹きかけた。
身を委ねたくなるくらいに心地良い風が、あたしの髪を持ち上げる。
さわさわと草木の擦れる柔らかな音が響いて。
淡い朱の光が彼を包み込み、伏せた目の縁を飾る長い睫毛が、夕陽に照らされて。
揺れる金糸とともに、象牙のように白い頬に影を落とす。
その動きの全てが……まるで、スローモーションのように見えた。
「どうでしょう…? 痛みは……」
再度ふくらはぎをそっと掴まれ、足首に手を添えられて。
ほんの少しだけ持ち上げられる。
「──…痛く、ない」
さっきまでは、ちょっと動かしただけでも痛みが走ったのに。
……痛くない。ほんとに、全く。
ピアスホールを開けた時に出血を止めてくれたけど、こんな事まで出来るなんて。
やっぱり驚いてしまう。
目を丸くしつつ顔を上げると、未だに浮かない表情の葉玖と目が合った。
反射的に意地を張ってしまい、蜂蜜色の瞳をぐっと睨む。
「……なによ」
「由羅様」
突然、優しく掴まれていた足を引っ張られ、視界がぐらりと揺れる。
床についていた手首と肘がカクンと曲がり、力を入れる間もなく、後ろに倒れて…──
「これは、私からのお願いです」
思わず目をぎゅっと閉じたけど、衝撃はなくて。
ふわりと香る花の芳香と同時に、頭を支える温かい掌を感じて。
ゆっくりと目を開く。
「……願い、って」
そこではっと息を詰めた。
恐いくらいに強く鋭い、あまりにも真剣な眼差しに射抜かれて。
「“痛み”を“痛み”で紛らせようとするのは……由羅様、どうかおやめ下さい」
「──…っ」
まさか、そんな事を言われるなんて。
拍子抜けして笑ってしまった。