貴方に愛を捧げましょう
終わりの迎え
一瞬、あたしに向けて言われたのかと思った。
けれどすぐにそうじゃないと気付く。
視線は逸れてるし、様子もおかしいまま。
……それに。
「──…っ!? 由羅、様」
唐突に、はっとした様子で我に返った彼と目が合い、一瞬の沈黙の後。
「ごゆっくりお休みになられましたか…?」
このおかしな状況に全くそぐわない事を、困惑気味に微笑みながら問い掛けられた。
この状況ではとてもその問いに答える気にならず、無視して別の問い掛けをした。
「一体、その狐はなんなの」
「えっ…──ああ、そうでした」
彼はふと思い出したように頷くと。
何も答えず流れるような動作で、狐の前にすっと身を屈めた。
そして手を伸ばすと、狐の視界を覆うように掌を翳(かざ)す。
「彼の元へ戻ってはいけない。さぁ、お帰り」
優しい声音で、暗示をかけるようにそう告げると。
彼が手を引いた途端──狐は周りに目もくれず、さっと走り去って行った。
開いたままの門から出ていくのを見送った彼は、再びこちらに向き直る。
それを合図にあたしは口を開いた。
「……で?」
「あれは……里の使いが、蠱術をかけて送ってきたものです」
里? こじゅつ?
何なの、それ。
眉間に皺を寄せて、無言で疑問を投げ掛ける。
「蠱術とは、虫や動物を操る術を言います」
「──…そう。あの狐を操ってここに送り込んで、何をさせに来たの」
「私の封印が解かれたのか否か、確認に寄越したのでしょう」
「どうして術をかけた本人が来ないの? その方が手っ取り早いでしょ」
「事実確認の為、逃げる仙里を追っているからかと……」
急に出てきた知ったばかりの名前に、思わず眉を潜める。
「……仙里? あなた確か、自由の身になった事は内密にするよう、彼に言わなかった?」
そこで葉玖は再び困惑気味に微笑んだ。
「あの子は嘘が吐けない、素直な方ですから」
……それって、誉めてるの? 貶してるの?
「そうは言いましても仙里は、私が解放された事を口にした訳ではないようです。私の匂いと、それが付いた理由を問いただされて、上手く答えられなかったのでしょう。それ故…──」
「追いかけられている、と」
「ええ……」
それを聞きながら、ふと疑問に思う。
どうしてそんな事が分かるの?