貴方に愛を捧げましょう
はっと息をのむ音、そして数秒間の沈黙後。
二つの黄玉が見開かれ…──
「由羅様っ……!」
「──っ、う」
……後悔した。
息が詰まるくらい抱き締められて。
葉玖の胸に顔を埋める形になり、甘い香りを目一杯吸い込む羽目になった。
頭がふらふらする。
「貴女は本当にお優しい方ですが、同じくらい残酷だ……っ」
「──…っ、とっても素敵な皮肉を、ありがとう…っ」
「そんな、皮肉などでは……」
「っ、分かったから、離してっ……苦しい」
息苦しそうな声に彼がぱっと離れた。
しゅんとしたように項垂れ、前髪が彼の顔を隠してしまう。
反省しているのかと思ったら…──なんてことない。
「申し訳ございません。嬉しさの余り、舞い上がってしまい……」
その前に、反省して。
肩透かしを食らった気分だわ。
頭の中で毒づくと、不意に蜂蜜色の瞳があたしを覗き込む。
とろけてしまいそうな極上の微笑みを浮かべて。
「益々、貴女のお側から離れたくなくなりました」
ああ、もう……最悪。言いたい事が通じないって意味で。
この際、きちんと理解してくれるまで、彼が嫌になるくらい、くどく説明したい。
そうすれば少しは離れたいと思ってくれるかしら。
「……はいはい」
どう答えるのが最善か思い付かなくて、取り敢えず、適当に流すような返事をした。
そんな態度に気を悪くした様子もなく、葉玖は更にこちらに詰め寄る。
額に、そっとキスを落として。
心がくすぐったくなるような優しさが伝わるそれに、思わず、ふっとため息をついた。
「葉玖……」
無意識に彼の名を口にした、特に意味もなく。
魅惑的な柔らかい唇が離れた──その刹那。
目の前の身体が、ぐらりと傾いだ。
それに気付いた時には遅く、白い着物を纏う長身は、ぐったりと縁側に横たわっていた。
「ちょっと、どうしたの…っ」
突然の事態に本気でびっくりして、目を丸くする。
慌てて傍に寄って顔を隠す髪を両手で掻き分けた。
指をすべるさらりとした金糸が、彼の獣の姿を無性に思い出させる。
瞳を覗こうとしたけど、力なく閉じられた瞼に阻まれて、それは叶わない。
そこで唇がぴくりと動いた。
「私も……少し、疲れているようです」