貴方に愛を捧げましょう
なんて綺麗なの……。
ふわふわ、ひらひら。葉玖の周りを優雅に舞っている。
まるで葉玖が纏っていた青白い炎──狐火のように、妖しい青で朧気に発光しながら。
「どうして……ここにいるの」
「私の居る所へ送られてきたのです」
それを聞いて、思わず蝶から彼へと視線を移した。
気付いた事があって。
「──…もしかして、あの狐と同じ?」
「ええ。かけた者は違いますが、蠱術で操られています。伝言を携えて」
「伝言?」
「お聞きになられますか?」
そう言うと葉玖は、なぜか嬉しそうに微笑んだ。
まるであたしが気にしたのを喜んでるみたいに……。
どうして嬉しそうなの。
「聞いてほしいの?」
まさかね、と思いながら尋ねたのに葉玖は何も答えず黙って微笑んだまま。
……イラッとする、その笑み。
「勝手にすれば。あたしには関係ないんだし」
「それでは、貴女のお言葉に甘えます」
睨み付けるあたしをよそに、葉玖はまた嬉しそうに微笑んだ。
一体、なんなのよ。
そこで葉玖は庭の方へ向き直った。
持っていた数珠が巻き付いている刀を、胸の高さまで掲げて手を離す。
それは落下することなく、宙に浮いたままピタリと停止している。
そこで合図もなく、招集されたかのように周りを優雅に舞っていた青い蝶逹が、彼のすぐ側に集まってきた。
蝶はふわふわと儚げに舞い降り、全てが刀に着地する。
蝶逹は羽を休める様でもなく、刀と同様、まるで標本の様にピタリと静止した。
対する葉玖は瞼を閉じ、両手を刀の前に構える。
次の瞬間──彼が、拍手(かしわで)を一つ打った。
葉玖の打った拍手を合図に、静止していた蝶逹が弾けた青い火花のように、一斉に飛び立つ。
それらは遠くへ行かずに、葉玖とあたしを囲うように移動して──
──次の瞬間、突然起こった現象に驚いて反射的に身を竦めた。
鼓膜へ直に響く、鈴の音のような、声。
『葉玖、里には戻らないで…っ。あなたが戻れば、私は……とにかく私の為だと思って、お願いっ…──』
そこで声は途切れた。
夜明けの空気に染み込むように、徐々に小さくなって──消えた。
そして蝶逹は何事も無かったように、再び、ふわりふわりと気紛れに辺りを舞い始めた。