貴方に愛を捧げましょう
忠誠を誓う? あたしに…?
訳が分からない。
だけど……とりあえず。
「じゃあ、あたしを呪うとか、殺すなんてことは、ないのよね」
「ええ……」
「──…そう。それなら」
あたしは警戒体勢を解いて立ち上がり、膝をついたままの彼を見下ろした。
本当に何もするつもりはないらしい。
あたしが立ち上がっても身動き一つせず、ただこちらを見上げるだけ。
何か魔力のようなものを秘めた、妖艶な瞳で。
そんな彼に、あたしは強い口調で言い放った。
「もう、あたしに関わらないで」
けれど彼は、真っ直ぐあたしを見上げたまま静かに答える。
「それは出来ません」
「出来ない? どうして」
思わず眉をつり上げた。苛立ちが声に滲み出る。
出来れば、この会話さえ早く終わらせてしまいたいのに。
「私の封印を解いた今、貴女は私の“主”なのです。そしてこの先、貴女が一生を終えるまで、私は貴女に忠誠を誓います」
──…有り得ない。
どうして、あたしに関わらずにいるという簡単な事が出来ないの?
彼はさっきから“忠誠を誓う”という言葉を繰り返すけど……一体どういう意味なの?
「もっと具体的に、分かるように説明して」
目の前の妖しくも美しい“異形”の彼と、ちゃんとした会話が成り立つのなら。
とりあえず、話を聞こう。
解決策を練るのはそれからだ。
もちろん、あたしから彼に離れてもらって、元の平穏を取り戻す方法を。
すると彼は、躊躇いもなく淡々と話を始めた。
「私は、私を封印した者と契約したのです。私の封印を解いた者に、忠誠を誓う事を」
「例えば……あなたは何をするの?」
「私をどう扱うかは主の自由です。ご命令とあらば、何なりと」
彼の言葉を聞いて、あたしの頭にあるイメージが浮かんだ。
まるで、彼とあたしの関係は──主人と従者。
彼の言い様では、そう捉えられるのが自然だ。
しかも“人間”のあたしと“異形”の男。
あたしが“主人”で、彼が“従者”?
こんなの……受け入れられるはずない。