貴方に愛を捧げましょう
意見を述べながら、ふと気付いた。どうしてこんなにも数珠が気になるのか……。
葉玖を苦しませたものを、見たくないんだ。
そして無意識にそんな事を感じていた自分に、すごく驚いた。
そんな自分に気付かれたくなくて、彼から顔を逸らす。
墓穴を掘りたくなければ、もう何も喋らない方がいいかもしれない。
様子の変わったあたしに気付いたのか、葉玖は一瞬の沈黙後、それでも再び話を進めた。
「由羅様、貴女も見ましたでしょう。恐ろしい狐の姿見をした炎を。あれは私の内に潜む“悪”そのものです」
自分の中に生まれた感情に驚きつつも、話を聞いて疑問に思う。
そもそも、どうして刀にそんな力を込めたのだろうか。
それに……。
「元はあなたの中にあった力なら、あなたにとっては危険じゃないでしょ」
そこで葉玖はまた黙り込んだ。
あたし何か変なこと言った?
訝しく思いながら、横目に彼の顔を見ると。
「この刀は、私自身ではない……ですが、意思はあります。その証しに、私の封印を解く際に貴女の意思に応えたでしょう。それ故、危険なのです」
重苦しい口調で語った様子は、どこか恐々としている風に見てとれた。
声が微かに震え、今では感情豊かになった瞳の奥に脅えを感じ、顔は今までに無いほどこわばっている。
……そういえば。
葉玖の封印を解く前も、今も、刀の事を幾度も“危険”だと言い諭してきた。
それは単に、あたしへの忠告なんだと思っていた。
けれど彼の封印を解いた今、あたしは二度と彼の刀を手にする事はない。
だから、危険だと忠告される必要もない。
だとしたら……どうして?
まるで言い聞かせるように、繰り返し“危険”と口にして……。
そこではっとした。
──…もしかして、恐れている? 葉玖は……。
「あなた、刀が……恐いの?」
思い至った結論を確かめるべく告げた言葉に、虚ろな瞳を向けられた。
鬱とした表情は、恐怖によって歪んだ微笑みに変わる。
「私は……この刀が、我が身に潜む内なる狂気が、とてつもなく恐ろしい」
それは自身に対する恐れを、語っていた。
その表情を見たくなくて、ふと思い付いた事を言ってみた。
すごく単純なものだけど……。
「刀を折れば?」
「然(さ)れば、刀の力は私へ強制的に返還されます」