貴方に愛を捧げましょう


意見を述べながら、ふと気付いた。どうしてこんなにも数珠が気になるのか……。

葉玖を苦しませたものを、見たくないんだ。

そして無意識にそんな事を感じていた自分に、すごく驚いた。


そんな自分に気付かれたくなくて、彼から顔を逸らす。

墓穴を掘りたくなければ、もう何も喋らない方がいいかもしれない。

様子の変わったあたしに気付いたのか、葉玖は一瞬の沈黙後、それでも再び話を進めた。


「由羅様、貴女も見ましたでしょう。恐ろしい狐の姿見をした炎を。あれは私の内に潜む“悪”そのものです」


自分の中に生まれた感情に驚きつつも、話を聞いて疑問に思う。

そもそも、どうして刀にそんな力を込めたのだろうか。

それに……。


「元はあなたの中にあった力なら、あなたにとっては危険じゃないでしょ」


そこで葉玖はまた黙り込んだ。

あたし何か変なこと言った?

訝しく思いながら、横目に彼の顔を見ると。


「この刀は、私自身ではない……ですが、意思はあります。その証しに、私の封印を解く際に貴女の意思に応えたでしょう。それ故、危険なのです」


重苦しい口調で語った様子は、どこか恐々としている風に見てとれた。

声が微かに震え、今では感情豊かになった瞳の奥に脅えを感じ、顔は今までに無いほどこわばっている。


……そういえば。

葉玖の封印を解く前も、今も、刀の事を幾度も“危険”だと言い諭してきた。

それは単に、あたしへの忠告なんだと思っていた。

けれど彼の封印を解いた今、あたしは二度と彼の刀を手にする事はない。

だから、危険だと忠告される必要もない。

だとしたら……どうして?

まるで言い聞かせるように、繰り返し“危険”と口にして……。


そこではっとした。

──…もしかして、恐れている? 葉玖は……。


「あなた、刀が……恐いの?」


思い至った結論を確かめるべく告げた言葉に、虚ろな瞳を向けられた。

鬱とした表情は、恐怖によって歪んだ微笑みに変わる。


「私は……この刀が、我が身に潜む内なる狂気が、とてつもなく恐ろしい」


それは自身に対する恐れを、語っていた。

その表情を見たくなくて、ふと思い付いた事を言ってみた。

すごく単純なものだけど……。


「刀を折れば?」

「然(さ)れば、刀の力は私へ強制的に返還されます」


< 111 / 201 >

この作品をシェア

pagetop