貴方に愛を捧げましょう
……そうよね。
刀を折って、刀も力も消えて無くなるなら、すでにそうしてるはず。
でも、彼は刀の力を恐れてるみたいだし……他にいい解決策が思い付かない。
顔をしかめて額を押さえながら、結論を述べた。
これ以上、刀の話を引き延ばしたら……彼の苦悶に歪む顔を見ることになる。
契約違反をさせた時の彼の状態を、彷彿とさせるような。
理屈どうこうの問題じゃない。とにかく、それだけは嫌だ。
「──…じゃあ、数珠で封じてる限りは安全なのね」
「ええ、数珠に力を封じられるのは“一時的”な状態、という事にはなりますが」
「また一時的なのね……」
うんざりしたような呟きに、葉玖は申し訳なさそうに首を僅かに傾ぐ。
「刀の力を封じる為にも、私を封印した者の強力な力が込められたこの数珠は、絶対に必要です。ですから、私を拘束していたものと同じだとしても、これを消し去る事は出来ないのです」
そこで話を切って余韻を残した葉玖は、どこか哀しげに微笑んだ。
どうしてそんな表情をするのか分からないけど、少なくとも、これだけは分かった。
「それじゃ……一時的にだけど、刀の力を封じてるその数珠は、あなた自身には影響無いのね」
「──…ええ」
あたしの言葉に、葉玖はなぜか驚いたように瞠目して応えた。
その反応を訝しく思っていると、とんでもない言葉が耳に飛び込んだ。
「私を……心配して下さったのですか…?」
「──……、あっ」
彼の言葉に、無意識とはいえ自分が“らしくない”ことを言った事実に気付いた。
呆然とした自分を見られたくなくて、思わず片手に顔を埋める。
あぁ、もうっ……最悪。
ホント、らしくない。
起き抜けで頭がボーッとしてたんだ、きっとそう。
「由羅様……」
蜂蜜のような甘みの孕んだ声が、頭にジンと響く。
あたしの顔を見ようと、横顔を隠す髪をそっと後ろに避けようとする、彼の指先の感触がした。
今はひたすらにこう思う。
放っておいてほしい。
……まぁ、全く心配してないって言えば、嘘になるけど。
だって……あんなにも苦痛に打ち震える葉玖の姿、もう二度と見たくない。
でも、今彼の手を振り払ったら、彼の言葉を完全に肯定することになる気がする。
それは──ちょっと、今のあたしには……。