貴方に愛を捧げましょう
目の前の姿に驚いて息をのむ。
あたしを見つめる蕩けそうな蜂蜜色の瞳、金糸のような髪、滑らかな白い肌、上質な白い着物。
当たり前だけど、どう見たって葉玖にしか見えない。
けれどすぐに、その“からくり”に気付いて、これ見よがしに長いため息をついた。
「葉玖、いい加減にして…っ」
振り向きざま、そう言いながら突っ掛かる。
そこで腕が差し出されて反射的に後退った。
もちろんそこに逃げ場は無く、後ろに居る葉玖にぶつかってしまう。
おまけに、目の前の葉玖に腰を引き寄せられて、淡い花の芳香がふわりと鼻腔を擽り──…そして。
素早く顔を寄せてきた彼の唇が、あたしの唇に優しく触れて。
じわり、と侵食するような微かな体温を感じた。
今更、彼を拒絶する理由は無いけど……こういう不意打ちは嫌いだ。
それにあたしを逃さないための“からくり”を施したのも、また然(しか)り。
そこまでする必要ある? そんなにキスがしたいの?
これじゃあまるで、捕食者に捕われた獲物みたいじゃない。
完全不利なあたしの今の状況は……はっきり言って、気に入らない。
「今度したら、噛み付くわよ」
「それが口付けの代償とあらば、喜んでお受け致します。どうぞ、噛み付いて下さいませ」
そう言いながら、後ろにいる葉玖があたしの手に指を絡めて繋ぎとめ、甲に口付ける。
ああ……声も話し方も、そっくり同じ。
一体、どっちが本物なの?
本物の葉玖にもう一度同じ事を言っても、あたしの話を本当の意味で理解してくれる見込みは無いに等しいんだけど。
「放して」
「私に暫し、お時間を戴けませんか…?」
「嫌よ…──っ!?」
そこで突然の刺激に身を竦めた。
後ろに居る葉玖に捕えられたままの手首に、焦れるような感覚が走って。
驚いて振り向くと、微かに開いた彼の唇から僅かに覗く白い歯が、肌を甘噛みしていて。
やけに熱い眼差しで見下ろしてくる瞳と目が合った瞬間、唇が肌に吸い付く。
「なにっ、やって…!」
「貴女に触れたかったのです……」
「今までも勝手に触ってきたじゃない…っ」
「それについては謝罪しかねます」
「ぁ、っ……! なにそれ…っ」
際どい所をするりと撫でられ、思わず声が上がる。