貴方に愛を捧げましょう
元々、タイトな服や足にまとわりつくような服は嫌いで、いつも風呂上がりは薄着でいる。──就寝時は特に。
今の格好は、下着の上から太股が半分隠れるくらいのブラウス一枚、着てるだけ。
例え下着だけで眠りについても、今まで危機感など一切なかった。
けれどもう、あたし達の間に主従関係は無く、あたしに想いを向ける彼は、自由の身。
残念ながら……あたしのお陰で。
「貴女に魅了された私は、何時も、理性と誘惑の板挟みになっているのですから……どうか、お許し下さいませんか?」
「嫌って言ってるでしょ…! もう、いい加減にしなさ…っ」
まだ拘束されてない方の手を、例の如く、彼の頬を平手打ちするつもりで振りかざした──けど。
力の入りきらないそれは簡単に捕えられてしまう。
前に居る葉玖がその手を引き寄せると、見せ付けるように、赤い舌で小指をゆるりと嘗め上げた。
言い様のない感覚が、ぞくりと指先から全身を伝う。
腕を引きたいのに、まるで麻痺しているみたいに動かせなくて、ひたすら堪えるために彼を睨む。
すると彼は微かに口角を上げた。
勘違いだと思いたい。あたしの反応に彼が……喜んでいるように見えるなんて。
「由羅様はお預け上手ですね……」
「ゃ、め…っ」
「とても可愛らしいですよ」
「ぅ、るさっ……ぃ」
「挑発的なその眼差しも……益々、煽られる」
前後に居る葉玖が惑わすように交互に話す。
彼に翻弄される自分にもどかしく思いながらも、腕の自由を奪われて抵抗出来ない。
心地良い声音で耳元に囁かれて、艶かしい手付きで肌を撫でられて、あちこちに甘い痺れが走る。
それでも頭の中は理性的で、どうにか自我を保てていて。
我慢なんてするまでもなく、こうして勝手に手を出してるくせにっ……何がお預けよ!
葉玖の悪戯に阻まれて声に出せない罵倒を、思い付く限り上げていく。
けれど、それもほんの一時のことで。
「由羅様」
不意に、後ろから慈しむように呼ばれたと思ったら、彼の手によって晒された耳の縁に、熱いものが這う感触がして。
すぐにそれが彼の舌だと気付いた時には、舐められた部分をやんわりと食まれて。
思わぬ刺激に、逃げる事が叶わないのも忘れて頭を振ろうとしたら、今度は顎を捕えられて動かせなくなる。