貴方に愛を捧げましょう
そうして見計らったように首筋へ降りてくる唇。
──…もう、完全に彼のやりたい放題。
ここまでされても、逃げも抵抗もまともに出来ない自分に、無性に腹が立つ。
もどかしさと苛立ちが募って、いい加減、怒りで爆発しそう。
「葉玖…──っ」
まともな言葉も紡げず、堪らなくなって叫ぶように名を呼ぶと。
前に居る葉玖が、掴んだままのあたしの顎を引き寄せて。
「はい、私はこちらですよ。由羅様……」
訳の分からない答えを囁くと、蕩けるような微笑みと共に、妖しさを滲ませた瞳がすっと細められる。
まるで何かに狙いを定めたように。
次に何をされるか容易に予測がついて、噛み締めるようにぐっと口を閉じる。
すると案の定、寄せられた彼の唇が頑なに拒む私のそれに、ふわりと重ねられる。
──同時に、今度は後ろの彼に項(うなじ)へ口付けられて。
くぐもった声が閉じた口の隙間から漏れてしまう。
もうどっちのものだか分からない手が、いつの間にか服の中に侵入して直に肌に触れ、背中や括れをゆったりと撫で上げる。
膝を崩すような感覚が駆け抜けるけど、腰にまわされていた葉玖の腕が支えになって、座る事も出来ない。
終いには、追い込むように絶え間なく与えられる刺激に耐えられなくなって。
必然的に顎の力が緩み、僅かに口が開いてしまう。
そこから漏れた自身の声は……完全に負けを認めざるを得ないもので。
「っや、ぁ…──んっ!」
その声は直ぐに、葉玖の口付けによって塞がれてしまう。
それはこの身の全てを委ねたくなる程に、酷く優しいもので。
封印を解いた後にされた、獣に噛み付かれるような激しいキスとは、程遠く……身体の芯が溶けるくらい、甘ったるくて。
舌を絡めとるそれは熱くて、やっぱり優しくて。意識が呑まれそうになる。
悔しさも怒りも苛立ちも、全てを霧消させられて。
あたしの総てを支配するのは、葉玖に与えられる、甘く痺れるような感覚だけ。
「由羅様、こちらを見て……」
「っ、はぁ…っ」
不意に顔を離した彼が、濡れた唇を拭いもせずに言葉を紡ぐ。
喘ぐように息をし、熱に浮かされたように言われた通り見上げれば。
獣じみた眼差しで見下ろしてくる彼が、見ると眩むほど、美しく妖艶に微笑んでいて……。