貴方に愛を捧げましょう


「じゃあ、あたしに関わらないでっていう命令は、聞けるはずでしょう?」

「主に忠誠を誓い、付き従う。其れが本来の契約なのです。ですから貴女がたった今仰った命令は、私にとっての契約違反となります」


そんなの、あたしにとっては迷惑以外の何物でもない。

もう、どうすればいいのよっ……。

どうしょうもない苛立ちに、つい癖で、髪をくしゃっと掻き乱してしまう。

……そういえば彼、確かさっきこうも言ったわよね。


“この先、貴女が一生を終えるまで私は貴女に忠誠を誓います”


それって、あたしが死ぬまで彼に付きまとわれる、ってこと?

──…勘弁して。

あたしは思わず後ずさった。

背中がトン、と壁にぶつかる。

すると彼のすらりとした手が、あたしを引き止めるように伸ばされた。


「由羅様……」


教えた覚えのないあたしの名を呼ぶ、トロリとした蜂蜜のように甘い声。

あたしをじっと見つめる、ただそれだけで思考を支配するかのように魅惑的な、蜂蜜色の瞳。

頭が……ぐらぐらする。


「──やめてっ、あたしの名前を呼ばないで!」

「解りました」


彼の瞳、声、その他全てが、危険なほど魅力的で。

いくらあたしが彼を嫌悪していても、どうしようもなく惹き付けられる。


ぐらぐらする頭をはっきりさせようと、ぐっとこめかみを押さえながら彼をきつく睨みつけた。

それでも、彼はあたしの目の前から去ってくれない。

あたしは今、それを一番望んでいるのに。

こちらをじっと見つめたまま、従者よろしく、再び身動き一つせず跪(ひざまず)いている。


どうあっても、彼は諦めるつもりがないらしい。


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