貴方に愛を捧げましょう


“人間”という的を絞った言い方に、何か意味があるんだろう。

でも、そんなことに今は構ってられない。

葉玖に怯える気の毒な少年を、まず先にどうにかしなければ。


「私は帰らない。尊(みこと)……里へ戻りなさい」


再びあの高圧的な声が響いて、鳥肌が立った。

この声、嫌いだ。

こんな葉玖の声は聞きたくない。


そこで葉玖の腕を掴み、引っ張って無理矢理こちらに向かせた。

あたしの有無を言わせぬ行動に、蜂蜜色の瞳は驚きに見開かれる。

温もりの戻った瞳を見上げ──告げた。


「葉玖、あなたも帰りなさい。彼と一緒に」


すると案の定、想定通りの反応が返ってきた。


「由羅様…っ」


葉玖の腕を掴んでいた手を取って引かれ、あたしの力じゃ振り払えない強さで捕まれる。

あたしを離さないと、その行動だけで示さんばかりに。

すると、まるで死の宣告でも受けたような表情の彼が、見えているのかいないのか。

尊と呼ばれていた少年は懲りもせず、再び念を押すように声を上げた。


「そちらの御方もそう仰有られております故──どうか葉玖様、里へお戻り下さりますよう…っ」

「──…っ」


尊の発言により、再び凍てついた眼差しを彼に向けようとする葉玖を、頬に手を寄せて遮った。


「彼の事は一先ず置いておいて、あたしを見て」


すると素直に戻ってきた眼差しには、一瞬にしてあらゆる感情が含まれていて。

あたしを腕の中に閉じ込めるように抱いた葉玖は、切なげに想いを吐露する。


「貴女のお側に居られないのなら、何も意味を成さない。貴女の……由羅様の傍から離れたくありません」

「我が儘言わないで」

「貴女を独りにさせたくないのです…っ」

「っ! ──そういうこと言うのやめて」


あなたは……本当に狡い。


「──…言ったでしょう。あたし、帰ってくるなとは言ってない」


何も受け付けないと示すように、葉玖は左右にゆっくりと首を振る。

お願いだから、これ以上何も言わせないで……。


「あたしはどこにも行かない。他に行く場所なんてないんだから……。ここだってそう。あたしが居ても居なくても、気にする人なんていない。誰もあたしを必要としてないんだから」

「私は貴女が必要です、由羅様。私に必要とされるのでは、意味を成しませんか」


もう…──やめてよ。


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