貴方に愛を捧げましょう
「──…そうね、そう言うと思った。あなたは優しいから」
「この想いは、決して情けではありません。貴女無しでは生きていけない……」
今にも涙を流しそうな瞳から視線を落とした。
これではいつまでも堂々巡りになる。
何とかしてあたしを説き伏せようとする彼を横目に、今度は脇に佇む少年を見た。
あたし達のやり取りを呆然とした面持ちで眺めていたのか、目が合うと、突如我に返ったようにはっとして。
榛色の彼の瞳がすぐさま不審そうなものに変わる。
「葉玖……あなたが言う里へ“戻るべき理由”が本当に無くなったのなら、その時は、あなたの自由にすればいい。でも彼があなたを必要としてる、それが事実よ。そうでしょう?」
二人に対してそう告げると、少年は打って変わって必死に頷きながら葉玖に懇願の眼差しを向け、当の本人はあたしに悲痛な眼差しを向けてくる。
けれど今度はあたしを説き伏せようとはせず、葉玖は声に哀しみを滲ませながら、滔々と語り始めた。
「尊が私を呼び戻しに来た理由は察しています、きっと直ぐには里を出られないでしょう……。ならば貴女を伴に里へお連れしようと考えたのですが、現在の私の立場上そのような事をすれば……貴女を失う可能性があります」
尊という少年が葉玖を呼び戻しに来た訳、そんな彼が今置かれている立場、それによってあたしが如何なる理由により失われるという可能性。
語られたそれら全てにあらゆる疑問が浮かぶけど、敢えて何も訊ねない。
今この瞬間、答えを求めてはいけない。
……そんな気がして。
「だからこそ、それは出来ない…っ」
「いいのよ、それで。あなたはあなたの本来居るべき所へ、帰った方がいい」
そこで葉玖を見上げて、そっと笑みを浮かべる。
あたしは平気。一人でも大丈夫。だから…──
「貴女との今を伴に出来ない代償は大きい……」
「今の一瞬一瞬なんて儚いものよ。そんなの大したものじゃない」
例えどんなに大切な時を相手と過ごしても、それがほんの一時では意味が無い。
長い時を伴に過ごしてこそ意味がある。
あたしは──…そう思う。
だってそうでしょう?
時間は無限に有るけど、それを相手と長く共有してこそ、意味や価値を成す。
先が短く目に見えた限りある時間を伴に過ごすなんて……きっと最後には虚しいだけ、だから。