貴方に愛を捧げましょう
「由羅様と過ごした数ヶ月は、全ての日々、そして一瞬一瞬が私にとって大切なものです」
触れた肌からも想いを伝えるように、あたしの手を強く握り締めた葉玖は、自身の胸に掌を当てる。
暖かく優しい彼の心を体現したような温もり。
もう涙の浮かんでいない見上げた二つの黄玉は、揺るぎなく、鋭い眼差しがあたしを射抜く。
それを拒絶するような事は、もうしない。以前とは違うから。
あなたが……あたしを、少なからず変えてくれたから。
「仰られたように、例えどんなに短く儚い一時であろうと……由羅様、貴女と関わった総ての時間は私の大切な宝物なのです」
そういうふうに考えられるあなただから、こうしてあなたの言葉に耳を傾けている。
でも……駄目なのよ、どうしても。
あなたと一緒にいた時間は、短すぎた。
「ですが……貴女の考えを受け入れましょう。その上でお訊ね致します。長い長い時を伴にしたならば、それは貴女にとって確かなものに成り得ますか…?」
まるであたしの考えを見透かしたような問い掛けに、思わず瞠目する。
答えを待つ眼差しがあまりに儚くて、おかげで驚きはすぐに消え去った。
どうしようもないあたしの全てを受け入れてくれるあなただからこそ、それ相応の答えを返さなければ。
「──…そうね、きっと」
律よりも、両親よりも。あなたと過ごしたこれまでの時間が、誰よりも長かった。
だからこそ、それは強い確信に成り得る。
「──…あなたは暖かい、日溜まりみたい。まるで太陽のよう……」
彼の胸に当てられたままの手を、その白い肌に滑らせた。
項に触れ、金糸のような美しい髪に指を絡め、僅かに力を込めて引き寄せる。
更に近付いた彼の胸に額を寄せ、そっと笑みを浮かべながら告げた。
「これからもずっと、今のままのあなたでいてね」
その瞬間、痛いくらいに強く強く抱きしめられる。
けれどそれはすぐに解放され、今度はあたしの顔を両手で優しく包み込む。
「では──今、私は貴女の元を離れます。ですが、後に貴女の元へ戻ったその時は、どんな事があろうとも、決して由羅様のお側を離れはしない」
絶対に忘れられない、きっと何度でも思い出させられる。
あたしの脳に、鼓膜に、全身に記憶付けるように、甘く痺れるような低音でそれは告げられた。