貴方に愛を捧げましょう
遠い先の約束なんてしないでほしい。
口約束なんて、不確かで形の無いものに……焦がれたくないから。
でも、口にはしないでおく。
それを言ってしまったら──きっと、彼の顔が切なく歪む。
それはもう見たくないから。
あたしに温もりをくれたあなたには感謝してる。
けれどあなたがくれた言葉は心に留めず、心の奥底にしまって封じておく。
──…本当に、封じておけるかな……。
あなたの声は甘く心地良くて、優しい温もりは名残惜しく思わせる。
だから…──
「由羅様」
不意に呼ばれて視線を上げる。
目の前には、そっと笑みを添えて差し出されたもの。
「……、向日葵?」
いつの間に持ってきたのか、萎れてしまった向日葵を手にする葉玖は、その花弁に口付け…──そっと息を吹きかけた。
それはまさに、春の芽吹きを感じさせる暖かく柔らかな、優しい息吹。
しなりと力無く萎れていたはずの向日葵、その垂れていた頭(こうべ)がゆっくりと持ち上がる。
まるで陽光を一気に吸収したかのように──ふわりと花弁を輝かせて。
「──…っ、すごい……綺麗」
目の前で起きた事に驚愕しつつ、素直な感想が自然と声に出る。
すると同じように、後ろから「わぁっ…!」っと歓声が上がった。
この魔法のような出来事に、尊のように人間ではない者にとっても、素晴らしく見えるのだろう。
「私が檻に捕われていた際に、貴女が下さった向日葵です」
「あっ……」
言われて思い出す。そういえば、彼の封印を解く前に向日葵を檻の中に置いたんだ。
それが……これ。
「向日葵の花言葉と共に、これを貴女に贈ります」
あなたの言葉は、あたしの冷めきった心に焔を灯す。全ての思い出を刻み込む。
はっと息を呑んだ。
もう……だめ。もう、あなたの事を思い出さない日は──ない。
「私の目は、あなただけを見つめる……」
「ええ、貴女が教えて下さったのです」
花言葉を呟いたあたしの手を取ると、葉玖はその手に向日葵を持たせる。
そして温かな掌で包み込み──跪いた。
見上げた蜂蜜色の瞳で、真っ直ぐな眼差しであたしの姿を映し、その揺るぎない意志を示す。
「どれだけ離れようとも、私の心は貴女だけを見つめています。由羅様、どうか…──」
「──……」
身体が、勝手に動いた。