貴方に愛を捧げましょう
ふと気付けば、両腕で葉玖を包んでいて。
無意識に自分から彼を抱きしめた事に、すぐに我に返ってはっとする。
でも……離さない。
跪く彼の頭を更にぎゅっと抱きしめ、甘い香りの髪に顔を埋めた。
「由羅……さ、ま…?」
彼の戸惑う声に顔を上げ、手を伸ばして真っ白な頬をそっと撫でる。
心地良い体温を感じながら、本心からの気持ちを言葉で伝えた。
「向日葵、大切にする。それと今まで……ごめんなさい。そして本当に、ありがとう」
すると予想していた通り、二つの黄玉からはキラキラと澄んだ涙が、ぽたりぽたりと流れ落ちた。
ゆっくりと首を左右に振って、涙に濡れた目であたしを見る。
「そんなっ……、そんな、こと…──っ!」
そこで魅惑的な唇に指を添え、黙らせる。
頬を流れる涙を掌で拭いながら、再び気持ちを言葉に紡いで。
「あなたの愛は、暖かくて美しくて……全てを受け入れるには、あたしにはもっと時間が必要みたい」
だから…──
「もし、もう一度あなたに逢えたなら……」
「いいえっ…! 必ず、必ずや貴女の御側に戻って参ります……!」
唐突に立ち上がった葉玖に驚く間もなく、想いのままに、狂おしいまでの気持ちをぶつけるように、強く強く掻き抱かれて。
苦しいけれど、されるがまま受け入れ──受け止める。
これで最後……だから。
「由羅様…っ」
暫くしてようやく彼が離れたのを合図に、その胸板を押した。
「さぁ…──行って」
強い眼差しで葉玖を見上げ、そう告げて。
素直に、けれど名残惜しげに、表情を切なく歪ませながら後ろに下がった彼は。
目を閉じ、もう一筋涙を流しながら──足元にあの不思議な青い炎を纏わせて。
周りの風を巻き込みながら、不意に少年の名を呼んだ。
「尊、里へ……戻りましょう」
すると控え目にそそくさと葉玖の側に着いた彼は、やっぱり戸惑った様子でいて。
終始気の毒だった彼を眺めてから、ふと葉玖に視線を戻す。
もう、言葉は要らない。
溢れんばかりの想いが込められた真摯な眼差しを受け、息を呑む。
そこで突如、ボッと音を立てて青い炎が勢いよく燃え上がり、目が眩(くら)んだその一瞬で。
──二人は跡形もなく、消えた。
……けれど。
葉玖が纏っていた芳しい花の淡い香りだけが──…微かに、残った。