貴方に愛を捧げましょう
始まりの合図
──…彼が居なくなってから、数日後。
夏休みも明け、学校が始まった。
……そう。確かに始まった、のだけれど。
それは“何事もなく”とは言い切れない、おかしな始まりだった。
始業式の次の日。
一限目を終えた後……目の前には。
「それにしても良かったなぁ、アイツ居なくなって」
「……っ」
「嫌な妖気も感じなくなったし、静かになったんじゃね?」
「──…まず、あなたが話し掛けてこなければね…っ」
あたしの前の席の人の了承も得ず、目の前を陣取ってこちらを向き、片手で頬杖をついて話し掛けてくる律がいて。
ん? とわざとらしくとぼけた顔をする態度に……イラッとした。
夏休みに鉢合わせし、一悶着あった後の出来事は──彼が戻ってくる可能性以外は、ここに来てしてから律に話した。
封印について的確な助言をくれた事だし、一応……お礼として。
そして彼が居なくなったと知った後も、相変わらず、こうして構ってくる。
……いや、以前以上に話し掛けてくるようになったと思う。
「んだよ、冷てぇな。──あ、あれか。お前にやっかんでた奴らのこと気にしてんだろ」
「え…っ」
その言葉に、それまで徹底的に目を合わさないようにしていたのに、思わず律を見てしまった。
すると律はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「あいつらには……まぁ、色々と牽制しておいたから」
「……牽制?」
「もうお前に手ぇ出さないだろーから、心配すんなって」
牽制って、一体なにしたの。──っていうか。
「……知ってたの?」
「知ってた。女子の妬みってマジで怖いよなー。やる事も結構、陰湿だし」
信じられない。そんな思いを込めた眼差しを向けたけど、当の本人はけろっとしてる。
「どうせ俺が口出したところで、余計な事するなって言うだろ」
「……」
言われた事が的を得ていて、反論出来ない。
思わず視線を落としてむっとしてしまう。
いやにあたしの性格を掴んでいる律に、どう反応を返すべきか分からない。
「まぁ結局、口出しちまったけど。由羅のツンケンした態度も、馴れりゃ可愛いげあるのになぁ」
「……っ、なにそれ…っ」
感慨深げな口調で突拍子もない発言をされ、反射的に律を睨んだ。
けれど彼は、あたしの心中に反して満面の笑みを浮かべる。