貴方に愛を捧げましょう
そこでなぜか律は、あたしの髪をくしゃくしゃに乱しながら、頭を撫でてきた。
「──まぁ、そういうわけだから。安心して俺と話せよ!」
「やだ……」
……というか、そもそも律がやたらに話し掛けてきたからこそ、妬まれる事になったのに。
まるで他人事のように気にする様子も無い彼は、続けざまに新たな話を振ってきた。
「そーいや始業式ん時だけど、他のクラスのやつに話し掛けられてなかった? あれ知り合い?」
「……知らない人」
余りにもあっけらかんとした態度に鬱とした気分になりつつ、あたしも気にしていた出来事を思い出させられて、くしゃくしゃになった髪を手櫛で直しながら答えを返す。
そう。あれは学校開始早々の、出来事…──
──昨日、始業式当日。
始業式の為のアナウンスがされ、集合場所へと移動する生徒達でごった返す廊下の様子を、あたしは動かず自分の席からぼんやりと眺めていた。
あの密集した人混みの中へ突っ込んで行く気には到底なれなくて。
しばらくしてから行こうと決めて、窓の外を眺めていると。
『──あれっ? 今日はいないの?』
『……?』
はつらつとした明るい声音に、自分に掛けられたものとは判断しかねて、視線だけを声がした方へ向けると。
明らかにこちらへ向けられている眼差しに、あたしは思わず目を見開く。
開きっぱなしになっていた教室の後ろのドアに立っているのは、一人の女子。
背が高く、すらりとした体型に、ポニーテールにアップされた緩くウェーブがかっている長い黒髪が、彼女を更に長身に際立たせていて。
ぱっちりとした目に全体的に柔らかな印象の顔には、敵意の無い友好的な笑みが浮かんでいた。
──というか、だれ。人違いしてる?
そう思いながら見つめ返すと、無反応なあたしにぽかんとした表情を浮かべ、そしてすぐにはっとした様子で我に返った。
眉をハの字に下げながら、彼女がこちらに歩み寄る。
『えーっと……突然ごめんなさい。驚かせちゃったよね』
『……驚いたというか、どうしてあたしに声を掛けたのか分からないんだけど』
冷静にそう言うと、彼女からとんでもない答えが返ってきた。
『ああ! うん、そうだった。あのね、あなたいつも一緒に居たでしょ? 白い着物姿で金色の髪の、すっごく綺麗な人と』
『──…っ!?』