貴方に愛を捧げましょう
どうして知ってるの? 彼の姿は律にしか見えてないんじゃ……。
『あなた、何なの?』
指摘された内容に過剰反応してしまい、思わずきつい口調で返してしまった。
──突然の事で気が動転してしまっている。
目立たないようにそっと深呼吸して、見知らぬ彼女を真っ直ぐ見つめた。
すると目の前の彼女は、困った様子でまた謝る。
『えっ…!? えーっと……ごめんなさい。気を悪くさせちゃった…?』
『……別に。どうして彼のこと知ってるのかと思って』
やけに素直に謝罪されて意図せず気が滅入ってしまい、意識して口調を和らげようと心掛けながら、そう言い直す。
自身の他人に対する応答にそれなりの原因がある事は分かっているつもりだ。
けれど今まで、彼女のように話し掛けられた事が無かったから……余計に。
すると彼女は再度困ったようにはにかみながら、話し始めた。
『本当にごめんね。私、思った事すぐ口にしちゃうとこあって……。あの彼の事は、初めて見た時から“人”じゃないっていうのは分かってたんだ。私とあなたにしか視えてないって事も』
『……そう』
そうか……違った。彼女も、律と同じような人なんだ。
驚いた。律の他にも、こんなにも身近に不思議な者達が見える人が、いるなんて。
──…でも、もう……。
『いいのよ、気にしないで。彼はもう……いないから』
『──…そっか』
なぜか哀しげな表情を浮かべたのは、あたしの見間違い……だろうか。
先程とは変わって静かに落ち着いた抑揚で、彼女は意外な事を口にした。
『私には見向きもしなかったけど、いつもあなたに、すごく優しい眼差しを向けてたから……。きっと本当は優しいんだろうなぁって感じたの』
『──…っ、どういう、こと……? あなたは、どうして…──』
思わず身構えてしまう。
敵意は感じられない。胡散臭さも無い。
だけど……なぜ目の前の見知らぬ彼女は、あたしに微笑むのだろう。
なんて純粋で裏の無い、優しい表情で……。
『彼があなたに向けていた、温もりのある瞳に……私も温かい気持ちになってたんだ』
『あなた、が……?』
あたしが気付いていなかった彼の様子が、今日初めて対面したばかりの彼女の口から語られて。
その真偽を疑えなかったのは、彼女から……とても純真な想いが、感じられたから。