貴方に愛を捧げましょう
今度は用心するために目を閉じ、自分自身を落ち着かせようと、深く息を吸い込んだ。
拳をきつく握り、ぴんと気を張って彼を警戒する。
「まず……いくつか質問させて」
「はい」
その一言だけなのに、彼の声が甘ったるく耳に深く響いてくる。
……だめだ、目を閉じると聴覚がよけいに敏感になる。
瞼を開いて、月明かりが射し込んでくる窓の外を眺めた。
「具体的に、何をすると契約違反になるの?」
「主に下された命令を無視する、又は、望みを叶えることが出来ない、主から必要以上に離れる。これらは契約違反となります」
「その違反を犯したら、あなたに何か、代償のようなものはあるの?」
「十年間、動けなくなります」
それを聞いて、思わず彼に視線を向けた。
動けなくなる? それって……。
「つまり、契約違反をすれば、あたなが言う“主”とは十年間は関わることが出来なくなる、ってことよね」
「私の身体の自由を奪う、それが代償なのです」
あたしが出した結論を、否定はしない。
それが答えなんだ。
誰と交わした契約かなんて知らないし、興味も無いけど。
とにかく、この先十年間は彼と関わらずに済むかもしれない、良い名案が浮かんだ。
彼に契約違反をさせる、絶対的な命令を。
「いいわ、質問はこれで終わり。あたし、あなたに命令する。あたしの望みと受け取ってくれてもいい」
すっと背筋を伸ばし、こちらを見上げる彼を見下ろした。
感情が読めない、冷たくも甘い瞳を。
危険なほどの妖艶さを放つ、美しい姿を。
そんな彼に、あたしは嘲るように言い放った。
そう、それはまさに…──あたしにとっての、最高の皮肉を。
「愛が欲しい」
さぁ、どうする?