貴方に愛を捧げましょう
──それから四十分が経ち、授業も終盤に近付いてきた頃。
黒板に書かれた内容をノートに書き写す合間に、先生の話を聞きながら、何気無く窓の外を眺めていると。
──リン。と、不意に涼やかな鈴の音が耳に届いた。
……鈴の音?
今までそんな音しなかったのに。教室をさっと見回してみたけど、誰かが鈴を持って鳴らした様子はない。
おまけに、音に気付いたのは……あたしだけだったらしい。
みんな前を向いてるか机に伏せってる。
気のせいだったと考えて、静かに前に向き直った。
なんだか、聞き覚えのある音のような気がしたんだけど……。
──と、再びあの鈴の音が響いた。
今度は二回、確かに聴いた。しかも──外からだ。
あまり目立たないように、そっと窓の向こうを覗いてみた。
ここは三階で、この下は……確か、図書館だったような。
誰かがサボってる…? あんな見つかりやすそうな所で?
疑問に思いながら下を見ると──黒い何かが、さっと横切るのが目に入った。
と同時に、リン、チリン、と可愛らしい鈴の音が辺りに響く。
どこで聞いた鈴の音なのか思い出そうとしながら、その見覚えのあるシルエットを眺める。
それはまさしく──猫。……だけど、明らかにおかしな点があった。
ゆらゆらと気紛れに揺れるのは……二またに分かれた、尾。
何か獲物でも狙っているのだろうか。草を掻き分け、しきりに周りを確認しながら進んでいる。
じっとその様子を眺めていると、そのうち猫は校舎裏の方へと消えていった。
授業終了のチャイムが鳴るまであと数分というところで前を向き、思わず目を擦る。
二またに分かれた尾をもつ猫なんている? 新しい種類の猫、とか。
……目がおかしくなったわけじゃないと、いいんだけど。
なんだか無性に気になって、次の休み時間、教室を出て校舎裏へと向かった。
「──…いない、か」
片側は一面、校舎のくすんだ白い壁。反対側は学校を囲うコンクリート塀。
校舎裏だから薄暗いのかと思っていたけど、そんなことはなくて。人ひとりいないここは、日差しがあって明るくて、とても静か。
……草が生えっぱなし伸び放題で、足がチクチクするけど。
そこで突然、ガサッ、と草を掻き分ける音が足元で響いた。
驚いて下を向くと──藍の瞳と、目が合った。