貴方に愛を捧げましょう
──…それからは。
授業が全て終わると、いつものように真っ直ぐ帰宅し、誰もいない静かな家の中を、自分の部屋へ向かって歩く。
庭に面した縁側を通りながら、夕陽の朱に目を細めた。
荒れたままになっていた庭は、いつの頃からか、小さな草花が健気に咲き始めていて。
元から手入れなど一切されてなかった庭なのに、どうしてこんなにも早く、新たな草花が生えてくるのかと首を傾げたのは、記憶に新しく。
そのおかしな現象を……しばらく不思議に思ったものだった。
もう一つの“不思議”に、気付くまでは。
二階の自分の部屋に着くと、制服のスカートを脱ぎながら、視線を窓際に向けた。
つい向けてしまう自分のこの視線には、毎回気付きはするけど……これは最近になってついてしまった、習慣だ。
もう、どうしようもない。
そんな視線の先には…──小さな花瓶にぞんざいに挿された、花。
あたしは花瓶なんて持っていない。これは両親が集めている骨董品の中の一つだ。
両親は膨大な数の骨董品を持っている。一つくらい無くなっても、きっと気付かないだろう。
そしてあたしは、そんなものに興味は無い。
ベッドに座って窓の縁に肘を置き、花だけをじっと見つめた。
彼がここから去ったあの日、あたしに残した──向日葵を。
ふと気紛れに、夕陽の朱に染まる花弁を指で撫でてみた。
沢山ある花弁の一つ一つを、そこから何か特別な力でも感じられるだろうかと、あたしらしくない事を考えながら。
向日葵は水に浸けているだけなのに、枯れる気配は一向にない。
まるで、変わらず地面に根を這わせているかのように──いや、それ以上に凛と力強く咲いている。
──そう。これは間違いなく、彼の力だ。きっと、あの庭の草花も。
……それにしても。
地面から離された花を、こうして水に浸けてまで生かしている自分が、まるで自分じゃないようで。
確かに『大切にする』とは言ったけど……自分の取った行動にどうにも耐えきれず、あげくの果てには、尤も(もっと)らしい理由までつけてしまった。
花に罪は無いのだから、と。
そもそも……こうして度々、彼の事を思い出すことになるなんて、考えてもみなかった。
無理矢理忘れようとしているつもりはない、けれど、それにしたって……。