貴方に愛を捧げましょう
自分自身に呆れ返る。もう……溜め息をつくしかない。
静かなのは好きだ。一人でいる方が好きなのも、変わっていない。
こうしてやっと、あたしにとっての日常が戻ってきたというのに。
それでも記憶の端々に、彼に関する事が鮮明に残っているから。
……だから思い出してしまうんだ。
こうも頻繁に、あたしの意識を乱すように……。
彼はもう居ないというのに、これでは彼があたしの傍から去る前と、ほとんど変わらない事になる。
いつの間にか落としていた視線を上げて、向日葵を恨めしげに睨んだ。
花は花らしく、素直に枯れてくれればいいのに。短い間に枯れて散ってしまうからこそ、花は儚く美しいのに。
……なんて、八つ当たりのような事を考えてしまう。
向日葵の存在によって、彼との思い出は甦るけれど、温もりは感じられない。
これは“彼”でも“代わり”でもないから……。
彼との思い出は、あたしの中のどこまで深く根付いてしまったのか。
未だにこうして、彼の“名残”にまで惑わされるあたしは……滑稽(こっけい)だろうか。
──ふと、そんな事を考えている自分に気付いて、はっとした。
今の自分に、嫌気がさす。
何よりも……彼がまた戻ってくると期待しそうな自分が、嫌だ。
自らの意志が、脆弱(ぜいじゃく)になったような気がして。
だから、期待なんてしたくない。単なる口約束に、意識を縛られたくはない。
それなのに……。
まだ夕陽も沈みきっていないうちから、ベッドに横になった。
眠ってしまえば、何も考えなくてよくなる。そう思って瞼を閉じたけど……。
最近、寝付きが悪くなった。
やっぱり、元の日常には戻りきれないのかな……。
寒いわけではない。なのに……身体は冷えていくばかりで。
彼が去ったあの日に予期していた通り、やっぱり考えてしまうんだ。
あの、太陽に包み込まれるような、心地よい温もりが傍にあれば──…と。
何よりも名残惜しく、絶対に忘れさせない。
“彼”という、暖かな日溜まりが。
彼に出会って、彼が去って。
あたしは……弱くなった。
──もう、いい加減やめなければ。考えたって仕方ないのは分かってるでしょう。
とにかく、意識を無にして、何も期待するな。
そこで身体を小さく丸め、窓から射し込む淡い緋色に──…身を委ねた。