貴方に愛を捧げましょう
家の外であたしを呼ぶのは──間違いなく、律だ。
タオルで口を拭いながら顔をしかめる。
まるでする事が小学生のようだ。
ぼんやりする頭でそう思いつつ、放っておけばいつまでも名前を呼び続けられそうで、仕方なく洗面所を出た。
台所の椅子の背に引っ掛けてあった厚手の上着を着込み、玄関に出る。
寒さに身体を震わせながらドアを少しだけ開け、勝手に庭まで入り込んで尚もあたしの名前を呼ぶ律を睨んだ。
「律……やめて、うるさい」
さっき戻した胃酸のせいで、喉がイガイガする。
おかげで声は掠れて思ったより小さかったけど、ドアの開く音に気付いた彼がぱっとこちらを向いた。
うんざりするくらい、明るい笑顔で。
「おっ、久しぶりだな! いやぁ、お前んちインターホンないからさ。それにしても、学校休みっぱなしで心配したよ。あと……あの霧島ってヤツも、由羅のこと心配してた」
「っ、だからって……」
「──つか、大丈夫か? 顔、真っ青じゃん。それにちょっと痩せたか?」
そう思うんなら、放っておいてよ。
そう言いたかったのに、また吐き気がして何も言えなくなる。
反射的にその場にしゃがみ込み、お腹を押さえた。戻せるものは何もないのに……。
「うわっ! ちょっ…──大丈夫か!?」
突然しゃがみ込んだあたしに驚いた律が、慌てた様子で傍に走り寄ってきた。
「そんなしんどいの!? マジでごめんっ。んで、ベッドどこ! どこに寝てんのっ!?」
「──…っ、上……」
もう抵抗する気力も起きず、慌てる律をそのままに、差し出された腕に身体を支えて立たせてもらった。
「勝手に上がらせてもらうかんな。てか、歩けるか? 由羅が構わねーなら、運んで連れてくけど」
捲し立てるように一息にそう言い切った律に、立ち上がったせいで目眩を起こたあたしは、声すら出せなくて。
青ざめたあたしを見ると、途端に決断を下した律がすぐさま行動を起こした。
──つまりは、あたしを抱き上げた。
「うわー、軽っ! お前メシ食ってんの?」
あたしを抱き上げたまま足で蹴ってドアを閉めた律は、いつものマイペースっぷりを見事に発揮しながら、家の中に上がり込む。
文句を言う気力もなく、素直にされるがまま身を預けた。
せめて、ベッドに運んでもらわなければ……。