貴方に愛を捧げましょう


何をしに来たんだろう……。

律がここに来た理由を、ぼんやりする頭で考えていると。


「薬は飲んだのか?」


タンタン、と軽快に階段を上がっていく律に唐突にそう訊かれ、力なく首を横に振った。


「飲めない……。気持ち悪くなって吐くから……」

「何か食ったか? 食えねぇのか?」

「ん……気持ち悪くて……」

「……重症だなぁ」


さすがに軽口で返してこなかった律は、階段を上がりきった所で、あたしの部屋がどこなのか訊いてきた。

あたしが指で示した先に着くと、また足を使って今度は襖を開け、そこに躊躇なく入っていく。


「病院には行ったんだろ?」


そう確認しながら、真っ直ぐ向かった先にあったベッドにそっと降ろしてくれた律に、お礼を言いながら頷いた。

結局、数日前に行ったのだ。


「でも……点滴打たれて薬もらっただけ。とにかく、何か食べなきゃ治らないって……」

「ははっ、そりゃそーだ」


涼しげな目元を細めて軽快に笑った彼は、ベッドの傍にしゃがみ、布団に埋もれるあたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。

おかげで寝癖が付いたままの髪が、更に悲惨な状態になる。


「やめてよ…っ」

「まーまぁ。とりあえず、何かあったら言えよな。友達なんだからさ」


友達、って……。

あたしには縁の無いその単語に、思わず眉を潜めてしまう。

そんなふうに考えたことが……なかったから。

返答に迷ってただ睨むように見上げると、ひねた笑みを浮かべた律は、またあたしの髪を掻き乱した。


「なんだよ、照れんなって」


……イラっとする。

これみよがしに思いっきり顔をしかめてやると、お返しとばかりに、きゅうっと頬をつねられた。

病人にする事じゃない。


「由羅はさぁ、俺のこと友達以下だと思ってるだろーけど、俺にとってのお前は、ちゃんと友達だから」

「……コメントしづらいんですけど」

「だーかーら、照れんなって。とりあえず、俺の腹ん中が真っ黒なのを知ってるのは、今んとこお前だけだ。知恵が付いてへらへらした外面を被れても、中身は昔から変わってねーよ」

「──…ははっ。それは知ってる」


相変わらずな律で良かった──…のかどうかは、別として。

「とにかく、心配して来たんだよ」の言葉だけは、心身ともに弱っている今だけは、素直に受け取っておこうと……思う。


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