貴方に愛を捧げましょう


その後、三日経ってようやく体調が戻ってきたため、学校へ行ってみた。


……行かなければ良かったと、帰路に着く頃には、ふらふらする頭で思うことになる。

“戻ってきた”というだけで、回復しきっていなかった体調は──再び、悪化してしまったのだ。

そうして家に着くと早々、寝込むことになってしまう。





──…その夜。

熱のせいか、喉の渇きで急に目が覚め、水を飲みに下へ降りた。

そこで居間に明かりが付いている事に気付き、驚いた。

……珍しい。両親の声が聞こえてくる。

二人が帰ってきたのって、いつ以来だろう……。


居間を横目に台所に入り、コップに水を入れてしゃがみ込んだ。

また目眩がする……頭も痛い。

痛みを堪えようと目をきつく閉じて、水を飲んだ。

渇いていた喉が潤って、思わずほっと溜め息をつく。

落ち着いたところで──両親の会話が耳に入った。


「転勤が決まったんだが、ここからの交通の便が悪くてなぁ。せっかく見つけて買った家なのに……」

「仕方ないわ。でも……そうなると、やっぱりマンションの方が便利で良いのかしら」

「そうだなぁ。また、良さそうなマンションを探そうか」


はっと、息を呑んだ。

持っていたコップが、手から滑り落ちる。

水は全て飲み干していたため、コップが床にぶつかる鈍い音だけが、ゴツッと虚しく響いた。


「──そうしましょう。転勤まで、まだしばらく期間があるんでしょう?」

「ああ、慌てる必要はないが……一応、前もって言っておかなくてはと思ってね」


──…また、引っ越す…?


薄暗い部屋の中、両親の声だけがあたしの意識を、靄を掛けるように支配して。

心臓が不規則に鼓動を打ち、不意に、喉に閉塞感を感じた。

息が、苦しい……。


分かっていたはずだ。引っ越しがここで終わりではない事くらい。

でも、こんな状態の時だからこそ……動揺してるんだ。

今まで、動揺したことなんてなかったのに…?


「──…はぁっ、ぅ……っ」


過呼吸になりかけてる……。

こんな時に発作が出るなんて。分かりやすすぎる自分の身体が心底情けなくて。

痛みの増す頭で考えたのは、このままではいずれ、頭がぱっくり割れて死ぬんじゃないだろうか──と。

それでもいいと、そうなれば楽になれると。

そう……思った。


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