貴方に愛を捧げましょう
一瞬、彼が目を見張ったような気がした。
でも……それは本当に微かな変化で、すぐに元の能面のような表情に戻る。
「私はどのように致せば良いのでしょう」
「そんなの、あなたが自分で考えて。それとも……あたしの望みが叶えられない?」
腕を組んで、すっと目を細める。
彼の様子を観察するために。
これで……彼が動けなくなればいい。
彼があたしの“本当の”願いを叶えてくれないなら、あたしが自分で自分の願いを叶えてやる。
……だけど。
「解りました」
「──…なにを」
嫌な、予感がする。
整然とした彼の表情と口調に。
完璧な形の魅惑的な唇が──言葉を紡ぐ。
「ご命令とあらば……貴女を、愛しましょう」
彼の言葉を聞いて、すーっと思考が冷めた。
そして、頭に浮かぶ“最低”という二文字。
「あたし、そんなこと一言も言ってないけど」
「ええ。ですが、愛が欲しいのでしょう…? ならば、私の愛を貴女に捧げます」
そこで初めて彼は、ふわりと微笑んだ。
それはとてつもなく妖艶で、甘美で。
見ているだけで、背筋がゾクリと震えるほど。
今までずっと、能面のような表情を保っていたのに。
──…どうして、ここで笑うの?
「ふざけないで、冗談はやめて。そんな……そんな偽りの愛なんていらないわ!」
そんな答え、望んでない。
あなたからの愛なんて欲しくない。
こんなの、間違ってる。
彼へきつく言葉を返した──次の瞬間。
あたしを抱きしめる、彼がいた。