貴方に愛を捧げましょう


仙里からの思わぬ言葉に、意図せず戸惑ってしい……何を言えばいいのだろうかと、あたしらしくもなく、暫く考え込んでしまった。

これはきっと……熱に浮かされているからだ。


「あなたは、一人じゃないの…?」


彼の普段の生活や暮らしを知らないから、どうしたって訊ねる形になってしまう。

あたしの問い掛けに、仙里はあの気の抜けるような笑顔を、ふにゃりと浮かべた。


「ううん。僕は、独りじゃない。大切な方と、大切な友達が、いるから」

「──…そう」


その言葉には彼の気持ちが籠っていて。あたたかな想いが、はっきりと伝わってきて。

あなたはきっと、とても愛されているのね……。

でも、あたしには…──関係の無いことだから。


「だからって……あたしに構わなくていいのよ。あたしは一人が落ち着くの……」

「僕は……独り、嫌い」


あたしの言葉に、急にしゅんとした仙里を見つめる。

潤んだ藍の瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうで……その様子に、ふと思い出した。

そういえば前に、あんなこと言ってたっけ……。


『誰しも皆、永久に孤独じゃいられない。僕らのように、異形の存在だって……』


あれは…──あなたの思いなのね。

あなたは、独りが嫌いなのね……。

それなら尚更、ここに来てはいけない。


「もうすぐ、ここを離れるから……」

「えっ?」

「ここから引っ越すのよ……。いつかは分からないけど……近いうちに、ここを出る事になったから」


だから、あなたが独りでここに居る事がないように、忠告しておいてあげる。

あなたを疎ましく思えなかった、あたしからの“最後の”お願いくらい……ちゃんと聞いてね。


「もうここに来ないで。いい…? あたしと会うのは今日で終わり。もう会いに来ちゃだめよ…?」

「どこ、行くの?」

「さぁ……分からないわ」

「由羅に、会えなくなる…?」

「そうよ。分かるわね、いい子だから……」


手を伸ばして、まさに猫っ毛のふわふわな髪をくしゃりと撫でた。

撫でる度に髪を縛る紐の先に付いた鈴が、冬の冷たい空気を震わせて、涼やかな音を凛と奏でる。

するとさっきまでは、しょんぼりとしていたはずなのに。


頭を撫でた──次の瞬間からは。

無邪気な様子で撫でてとねだる仙里の姿に、思わず笑みを溢してしまった。


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