貴方に愛を捧げましょう


壊れ物を扱うように、これ以上ない程そっと抱き起こされると、彼の両腕に優しく包み込まれた。


「貴女のお声を聴きたかった……貴方に名を呼ばれて、心が震えるような思いです…っ」

「ん……」


未だぼんやりする頭で、腕の中に埋まる顔を滑らかな首筋に押し当てる。

こうしていると、温かくて気持ち良い。


「ああ……由羅様、由羅様…っ」


甘く芳しい吐息が耳元を擽り、身体がふるりと微かに震える。

名前を呼ばれる度に、涙腺が緩んでいく。


「由羅、様…っ」


素直に彼の心地良い声に耳を傾けていると…──つぅっ、と涙が流れ落ちて。

そこには自尊心の欠片もなく、自らの手は、しっかりと彼の纏う着物を握り締めていた。

けれどその無意識からの行動に、暫くしてから気付いても……離す事は、出来なくて。


「お会いしたかった…──ずっと、ずっと……! 如何なる時も貴女を想い続け、私の心は片時も貴女から離れられなかった…っ」


求めていた温もりが、紡がれた沢山の言葉となって、あたしの心へとろりとろりと流れ込む。

甘い蜜のように、絡み付くように。


「由羅様…っ、由羅様……!」


まだ泣いてるのね……。声が震えてる。

あたしに会えて喜んでくれるのは、あなたくらいよ。


「愛しい貴女を漸くこの腕に抱けた私の心は、歓びに満たされています…っ」

「──…っ、ぅ……っ」


素直に認めてしまえば、受け入れてしまえば、こんなにも楽だという事に……今この瞬間、気が付いた。

彼が戻る事を期待したくない、しないようにしていたのは、自分を守るためだったんだ。

裏切られる事を前提に、自らが傷付かないようにする、無意識からの自己防衛。


なんて弱くて愚かなんだろう。

あなたの前では、あたしという存在はちっぽけでしかない。


「あなたが戻ってきてくれて…──嬉しい」


けれどこの感情は、言葉は、真実。


「由羅様…っ」

「あなたを見せて」


身体を離して、顔を上げた。

顔にかかる金糸のような髪を指に絡め、そっと避ける。


「綺麗な瞳を、涙で埋もれさせないで」


零れ落ちる涙に唇を寄せ、その一滴を掬い取った。

──その刹那、再び掻き抱かれて。


「愛しています…っ、由羅様、愛しています……!」


あなたの存在は、愛は、あたしの心を潤してくれる。

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